大学紹介
入試・入学
学部・短大・大学院
研究
就職・キャリア
​学生生活
​留学・国際交流
地域連携・社会貢献

歴史の表舞台に登場しない女性たちの空間演出から、
インテリアデザインにつながる意識を捉える

家政学部 ライフデザイン学科

赤澤 真理 准教授

2024/05/07

平安時代の高貴な女性が寝殿造で演出した空間に迫る

 
――研究分野について教えてください。

建築史という、住宅の歴史を研究しています。建築の外観や内部空間、家具など住まいの空間で繰り広げられる人の行動や動作から建築空間の特質を解明する取り組みです。その中で特に、平安時代の上流階級の住まいであった寝殿造を中心に研究しています。当時のままで現存する建築はないので、平安時代の物語絵に描かれた住まいの空間を分析し、人々が込めた思いや理想の空間像を考察し、生活空間をよみがえらせることを試みています。


――具体的にどのようなことを研究されているのでしょうか。

これまで、古代中世住宅史研究は、公式の儀式に重点が置かれてきましたが、私は住宅で日常的に行われた行事や生活などに興味があり、特に歴史の表舞台に登場してこなかった女性に注目しています。平安時代、身分の高い女性は公の場で姿を見せない代わりに、そこに座っているかのように御簾(みす)の内側に装束を置き、御簾の外側にも装束の一部を出して空間を演出していました(参考:ページ下写真)。この「打出(うちいで)」と呼ばれる手法や、空間を仕切るための几帳、眠るときに使う御帳(みちょう)などの調度品の使い方や演出方法を検討し、生活行動や身体動作、美意識までも踏まえた寝殿造の空間について明らかにすることを目指しています。古代中世宮廷の生活空間の具体像に迫っていきたいです。

他領域の研究者とも協力して、あいまいだったことが明らかになる面白さ

――研究との出会いについて教えてください。

建築を学んでいた大学3年次、「日本住宅の歴史」という講義を受け、政治や社会、美意識を背景に生み出されていく住まいの歴史に関心を持ちました。特に、何もない場所を家具や調度品といった「しつらい」によって生活空間に変えていく寝殿造の空間に興味を惹(ひ)かれ、源氏物語の中に描かれた建築空間を対象に研究を始めました。宇治にある源氏物語ミュージアムで光源氏の住まいの模型、奈良・京都の古建築を観察するなどして研究を深め、卒業論文では室町、江戸時代の人々の寝殿造への憧れが当時の作品である源氏物語の絵画に込められていることに着目しました。

――研究の魅力はどんなところにありますか。

「打出」には、儀式の動線や女性の居場所を示す意味があり、男性たちの宴会の場に主催者である女性の装束を置くことで、おもてなしの意味を込めることでもありました。誰にどう見せるかというデザインに対する意識は現代にもつながるものだと感じます。また、偶然そこに女性が座ったかのような自然さがよいとされ、季節や場にふさわしいものが好まれたことなどから、茶道や作庭といった日本の伝統文化、現代のインテリアや服装への考え方につながる感覚だと捉えています。あいまいだったことを明らかにし、過去の人々と対話することがこの研究の魅力です。
建築の内部空間の分析は、建築史だけでなく、服飾史や美術史など他領域からの検討も必要です。そのため、他分野の研究者と協力しながら、天皇や公家の邸に住む后妃・女院・女房の生活空間と行事について分析したり、国内外の美術館や博物館を訪れ、所蔵されている貴重な史料を実際に見せてもらいながら調査を進めたりすることも研究の面白さにつながっています。

古建築の現物に触れ、内外から建築を捉える力を養う


――学生たちの教育で大切にしていることは何でしょうか。

学科やゼミでは、住生活の領域について歴史文化の視点から考えることを目標に掲げ、学生たちと学んでいます。伝統的な住空間が失われつつある昨今ですが、私自身の研究でも重視している、現物を見ることの大切さを学生に伝えています。そのため、できるだけ現物の古建築に触れる機会をつくり、受け継がれてきた住まいの智恵、美、住み心地を体験できるよう心掛けています。美術館や民家園、歴史的な町などを訪問し、建築の全体像を捉える一方で細部からも全体を考え、建築や空間という立体物を評価できる力を養っています。


――受験生へのメッセージをお願いします。

建築物やインテリアに興味のある高校生の方は、ぜひ多くの建築やまちなみ、作品などを見てください。発想の源泉になります。本学科の学生たちは、さまざまなものを見て刺激された発想力を、「インテリアデザイン演習」での住まいやカフェの空間づくりに生かし、細部まで工夫を凝らした作品の制作に取り組んでいます。また、地域の古建築など本物にふれることで感性が磨かれます。ライフデザイン学科では、インテリアデザイン、くらし・地域デザイン、環境デザインの3つの領域をバランスよく学びます。卒業後も住宅・インテリア業界をはじめ、生活を豊かにする業界で活躍することができています。住まいの歴史や文化について、一緒に学んでいきましょう。

教員の著書(左)と文化庁Living Historyの助成を受け、再現した打出(中・右)(2021年度)。【河田昌之・赤澤真理・伊永陽子・森田直美・榎戸由樹考証。民族衣裳文化普及協会蔵】