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日常と災害の境界を感じなくなった時、 防災意識は日々の生活に定着する

人間関係学部 人間関係学科 社会・臨床心理学専攻

堀 洋元 准教授

2022/09/06

研究者として目標になる先生方と出会い、新しい分野に飛び込む

――研究分野について教えてください。

災害心理学という分野で研究を進めています。災害心理学は応用心理学の一つで、自然災害や人為災害に対する人間の心理的な反応や行動など、災害と人間心理の関係を研究するものです。この研究の目的は、災害の予防や人的要因による二次被害の防止です。例えば、避難所でプライバシーを保てず苦痛を感じるのは、他者との対人距離が確保できていないことが要因です。苦痛を和らげるために、周りからの視線を遮断するパーティションを設置するという対応が、災害心理学による解決策です。

――心理学の中でも新しい研究分野である災害心理学。取り組みのきっかけを教えてください。

この分野の研究が大きく発展していったのは、1995年の阪神・淡路大震災以降です。ちょうどその頃、私は大学で研究した「災害時の心理」をさらに深めるため、大学院に進学していました。その後、「広域災害における避難所運営訓練プログラム(STEP)」を開発した先生方に声をかけていただき、共同研究に参画。研究者として目標になる先生方と共に研究する貴重な機会でもあったと思います。
その当時、実際の災害現場や避難所などでインタビューする調査手法は初めての経験でした。実践研究として目の前の人の声を聞く重要度を肌で感じたことを覚えています。また、研究を積み重ねるにつれて、知見を得るだけでなく、地域の特色や町を知ることの面白さも感じるようになっていきました。神戸、東京、新潟などの避難所や自主防災組織への聞き取り調査では、それぞれの地域の様子が浮かび上がってきたことが印象に残っています。

日常と災害の接点を追究し、多くの人に伝えて防災意識の維持・向上に寄与

――研究の魅力を教えてください。

災害時や災害後、そして防災という視点で、人々の心や行動に災害がどのような影響をもたらすかを調べていくうちに、災害と日常は表裏一体だと思うようになりました。日常生活や身近な関心とは真逆の事象を研究テーマにしていながら、災害と日常がいかにつながるのかを探究するのが魅力の一つです。

皆さんも、災害時の備蓄をしていらっしゃるかと思います。普段は気にかけないものなので、気づくと食品や飲料の消費期限が切れていたり、懐中電灯が使えなくなっていたりという経験はありませんか。それではせっかくの備蓄も意味をなしません。食品や飲料の備蓄品は日頃から消費しつつ、次の備蓄をストックするよう心がけるなど、災害への意識が日常の一部に自然に入っていないと、防災意識を維持することは難しいのです。研究を通じて、日常と災害の接点を多くの方に理解してもらい、防災意識の維持、向上につなげていきたいです。

――研究のアウトプットはどのように行っていますか。

現在研究している防災教育プログラムの開発とその効果については、コロナ禍になる直前に大妻女子大学の教職員を対象にした防災訓練の中で広域災害における避難所運営訓練プログラム(STEP)を実施、検討しました。都心にある千代田キャンパス、郊外にある多摩キャンパスそれぞれで行い、各キャンパス特有の避難所問題を作成し、効果測定を行って比較。キャンパスが避難所になった時に起こりうるトラブルについては、事務職員の方に協力いただき、解決法を考えてもらいました。今はコロナ禍で一時中断していますが、再開したら検討を進める予定です。実践的に研究を進め、どんな災害にも対応できるような汎用プログラムの開発を続けていきます。

災害心理学を学べる、日本では数少ない大学。ユニークな学びは強みになる

――ゼミの学生たちも防災に関する知識を体験的に学んでいます。

私の研究では、誰もが大事だと思っていることを実際に体験してみることを大切にしています。学生たちは、防災食の食べ比べをしたり、ペットボトルでランタンを手作りし、災害時でも身近なもので楽しく過ごせる工夫を考えたりしています。そして、心理学の学びを応用して、実際にどのぐらい役立つかという評価を行い、見える化します。また、学生たちが学んだ専門知識やスキルを一般に広く伝え、活用してもらうために、地域の方々と交流しながら防災意識を高める地域連携プロジェクトへの取り組みも7年目を迎えました。「住み続けられるまちづくりを」というSDGsへの取り組みを、地域防災の側面から行っています。

――災害心理学を学ぶ面白さを教えてください。

幅広い分野にわたる心理学の学びの一つが災害心理学です。どちらかというと工学的な研究に近いものがありますが、防災や減災をテーマにした研究はさまざまな領域で行われているので、ほかの領域に隣接した学際的な学びを得られます。また、多様な災害への対応を学び、危機管理能力や臨機応変な対応力を身に付けることもできます。
高校生の皆さんは、自分では気づいていないけれど、既に防災に関する強みを持っている場合があります。それは、皆さんが学校で経験してきた避難訓練です。地震や洪水など災害の多い地域では、想像以上に具体的で実践的な訓練を実施しています。そこに住んでいる人にとっては当たり前のことでも、他の地域の参考になることが多いので、さまざまな地域からの学生が集まるゼミで話してもらい、地域ごとの比較を行って学びにつなげています。大妻女子大学は、災害時にキャンパスが避難所や帰宅困難者支援施設として利用される可能性のある大学。自分ごととして取り組める環境の中で、心理学の新しい分野を学ぶ面白さを感じられると思います。


――今後の研究の意気込みを教えてください。

ユニークなことを学ぶのは、自分の強みになります。私自身、心理学を専攻し、災害心理学を研究テーマに選んだのは、人と違うことをやってみたいと思ったから。誰もが必要だと思いつつ、その気持ちが続きにくい防災意識。そんな研究対象を、誰もが程よい熱量で意識し続けられるべく、情熱を持って研究していきたいです。

ペットボトルの中にLEDライトを入れた手作りランタン
そなエリア東京での体験学習
ペットボトルで心肺蘇生法訓練