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ごく身近な飲み物である「お茶」を通して世界の民族文化を探究し、発信する

大妻女子大学 国際センター

趙 方任 教授

2023/01/10

お茶の飲み方をひもとくと、国民性や文化が見えてくる

――研究のきっかけを教えてください。

北京大学で古典文献を研究していたのですが、26歳の時、留学生として来日しました。日本の大学では、日中共通で今もお互いに影響し合っている文化を学びたいと思い、研究テーマに「喫茶文化」を選びました。喫茶文化はリアルな生活の中に息づいているので、国民性を見出し、文化を知ることができます。研究を通じて、異文化の共存共生にも寄与できると思い、他国からやってきた私の立場だからこそ取り組む意義を感じたのです。

――研究分野について教えてください。

中国の喫茶文化および日中茶道の比較です。お茶は中国文化の中でも代表的なもの。中国発祥の喫茶文化が日本に伝わって日本独自の文化に変化していきました。たくさんの人たちに広く愛され、ごく身近なお茶という飲み物を通じて、その背景にある文化を考える研究です。ここでいう文化というのは、お茶の入れ方の一つであるお点前の美しい芸術面や喫茶健康法、お茶を使った料理、喫茶心理など幅広い対象を指します。

――具体的にどのようなことに取り組んでいるのですか。

中国の喫茶文化については、唐、宋、元の時代の茶詩を解読し、各時代の喫茶の特徴や茶の種類、独特な喫茶法、喫茶思想を分析しています。そして、各時代の相違点を踏まえ、中国喫茶文化の歴史的な変遷を解明しています。また、日中茶道の比較については、日本茶道が形成された以前の日本喫茶の実態を調べ、特に中国喫茶文化からの影響や、日本の独自性に着目して研究を進めています。
今は特に、元の時代の茶詩の収集と分析に取り組んでいます。モンゴルによって統治された元代は、それまで中国人がつくりあげてきた繊細な喫茶文化をガラリと変えた時代。遊牧民族だったモンゴル人は、お茶にミルクやチーズ、羊肉を入れて飲んでいたのです。しかし、その時代は長く続かず、100年ほどでまた中国人が力を握るようになり、喫茶文化も再建されたのですが、それは以前の踏襲ではありませんでした。また新しい喫茶文化を生み出したのです。このような経緯から、日本の茶道は元代より前のお茶に何も入れずに飲む中国の古い喫茶法、中国では新しい喫茶法へと分岐したため、中国伝来であるにも関わらず日中の喫茶文化には違いがあるのです。

生活に密着し、誰でも体験できる喫茶はコミュニケーションツールでもある

――研究の魅力を教えてください。

喫茶文化を知れば、国民性やそこで暮らす人々の価値観を知ることができます。例えば、中国の喫茶文化は、日本の茶道と同様、国の代表的な伝統文化の一つであり、国民性や民衆の価値観が凝縮されている文化の代表格。実用性を重んじる中国人は、身分の高い人には高いお茶を出し、「今日はいいお茶を出しているので、ぜひ味わってください」とあいさつします。一方、仏教と茶道のつながりが強い日本では、お客さんが来たらまずお茶を出しますが、特に何も言わない控えめな人が多いのです。お茶の出し方一つでも、国民性の違いが分かります。
何より面白いのは、喫茶文化が生活に密着していて、誰でも体験できるという点。私も現地調査を行う時は、必ず自分のお茶道具を持っていき、お互いのやり方でお茶を淹れ一緒に飲むようにしています。すると、相手が使っている道具やお茶の種類などを話題に自然と会話が弾み、お茶がコミュニケーションツールになるのです。古今東西の珍しい飲み方、お茶のたしなみを通じた人生観の形成、心の安らぎを得る手法など歴史の中で積み重ねられてきた茶人の智慧の奥深さや芸術性があり、おいしくて研究もできる……これ以上の魅力はないテーマだと思っています。

――研究のアウトプットはどのように行っていますか。

お茶は日常生活に密着しているので、どなたでも多少の興味があると思います。ですから、広く一般の人たちにもその魅力や奥深さを分かりやすく伝えたいと思っており、論文や書籍での発表のほか、講演活動、お茶のお点前実演会や試飲会、異なる喫茶法での交流会なども開催しています。
その一環として、Web上で喫茶情報の発信もしています。オルタ広場というメールマガジンで4年ほど執筆している「中国茶文化紀行」という連載です。ここでは、喫茶の歴史だけでなく、お茶を使った料理法や健康法、薬用としての効能、世界各地の飲み方など、調査のたびに得られることを紹介しています。世界には風変わりなお茶の飲み方がたくさんあり、例えば、穴を掘って火を起こしたところにお茶の木の枝を折って入れ、ちょっと焦げたら器に入れてお湯を注いで飲む、というスタイルもあります。これが甘くて、すごくおいしいのです。このような話を読んで、さまざまな人がお茶に興味を持ち、体験してもらえればと思っています。

―――学生たちの教育で大切にしていることを教えてください。

日常生活の中での喫茶の担い手は、やはり女性がメインといえるでしょう。ですから、大妻女子大学の学生たちには、お茶をおいしく健康的に飲むことはもちろん、自身の心の安らぎを得るために飲む、さまざまな人とコミュニケーションをはかるツールにするなど、美しく生きていくために活用してほしいです。そのためにも、私の研究結果を学生の皆さんに積極的に発信することを心がけています。

日本で数少ない喫茶文化の研究者として、世界中のユニークな喫茶法を調査していく

――今後の研究の展開を教えてください。

日本では、喫茶行為を文化としてとらえ研究を深めている人は少ないと思います。日本の茶道の研究者はたくさんいますが、歴史や所作の研究が多い。また、世界のお茶の研究者は植物分野を研究する農学系の人が多い印象です。そのような中で、研究を通じて異文化の共生共存に貢献できる存在を目指しつつ、中国、日本だけでなくイギリス、モンゴル、トルコ、モロッコ、ロシアなど世界中の喫茶法を調査、整理、分析していきたいです。世界には想像を超える数々の喫茶法があります。ごく身近な「茶」を通してさまざまな民族文化の相違点を解き明かし、文化研究を深めていきたいです。