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古典的テーマ×現代の技術力。子どもの心の発達プロセスを解き明かす

社会情報学部 社会情報学科 情報デザイン専攻

宮崎 美智子 准教授

2022/02/01

自分のことを自分だと認識する能力は、どのように育成されるのか?

――研究分野について教えてください。

認知科学と発達心理学を専門としています。
認知科学は、1960年頃に誕生した比較的新しい学問です。いわゆる学際分野と呼ばれる領域で、心理学や哲学、言語学、神経科学、人類学などさまざまなバックグラウンドを持つ研究者が集まり、人間の知性の仕組みと成り立ち、つまり「人の知性とはどういうものなのか」について探究します。

――研究テーマはどのようなものですか?

メインテーマは乳幼児の認知発達で、特に子どもの自己認識の発達に着目し研究しています。
人間が自分のことを「自分だ」と理解するためには、自分自身を客観的に見ることができなくてはなりません。その能力は生まれつき備わっているわけではなく、発達の中で育つものだといわれています。私は、この自分を自分だと理解する能力が、どういったプロセスを経て発達していくのかについて研究しています。
私の研究の特徴は、昔から研究されてきた古典的なテーマに、現代の情報・技術の力を活用した手法でアプローチする点にあります。たとえば、以前取り組んだのは「鏡に映った自分を自分だと認識できるか」についての研究です。猫などの動物は、鏡を見ても、そこに映るのが自分だと認識できずに攻撃したりするのですが、人間の場合は1歳半を過ぎた頃から、鏡の中にいるのは自分だと分かるようになります。それはなぜか、という問題は、昔から人間の発達の仕組みを解明する上でとても重要だと考えられており、自然科学者ダーウィンも研究していたほどです。私の場合は、自分の鏡映像の認識のためには自分の動きの情報がカギになることを示すため、自己映像を特殊な装置を使って2秒遅らせ、認識に変化がみられるか、といった方法をとりました。
鏡に映るのが自分だと理解できたり、ゲームをプレイするときに画面の中のキャラクターが自分だと認識できたりということを、みんないつの間にかできるようになるのですが、実際にどういうプロセスを経てできるようになるのかは、まだ分かっていません。その仕組みを技術の力を使って解き明かそう、というのが私のアプローチです。

8カ月の赤ちゃんにはすでに「ワルモノを懲らしめる」素地が備わっている

――現在の研究内容や手法について教えてください。

現在は大阪大学との共同研究で、第三者罰の発達、簡単に言うと、赤ちゃんはワルモノを見分けて罰しようとするのか、ということに関する研究を進めています。方法としては、近赤外LEDを用いた視線計測装置を使って、月齢8カ月程度の赤ちゃんの目の動きに合わせて画面上のキャラクターが動くようにしました。そして、赤ちゃんに簡単な映像を見せます。その映像には、追いかけていじめるキャラクターと、いじめられるキャラクターが登場します。自分の目の動きでどちらかのキャラクターに岩を落とせるとしたら、赤ちゃんはどちらに岩を落とすでしょうか?結果を言うと、多くの赤ちゃんはいじめっ子のキャラクターに岩を落とします。8カ月の赤ちゃんにはすでに「ワルモノを懲らしめる」素地が備わっているということですね。
また、2~3歳の子どもの身体に対する認識の発達についても、共同研究を進めています。先ほど、鏡を使った研究の話をしましたが、その研究の中で、本人に気付かれないように子どものおでこにシールを貼って鏡を見せると、自分の頭の後ろにシールがあると思って探す子どもがいました。その事例から、子どもの身体の認識が一体どうなっているのか知りたいと考えました。子どもに直接シールを貼る調査は、本人にとってインパクトが大きいため、繰り返しできることではありません。そこで画像の骨格検出と拡張現実(AR)によるバーチャルマークを用いた課題を考案し、調査を行っています。スクリーン上で子どもの身体のさまざまな位置にバーチャルマークを表示させ、子どもには自分の身体をタッチしてもらいます。タッチエラーや反応時間、触り方の動きの解析を通して、子どもの身体の認識のしかた、また自己映像を用いた身体の相対的位置関係の捉え方などを解明したいと考えています。

――研究を始めたきっかけは?

大学時代は小学校教員になりたいと思い、教職課程を履修していました。教職課程で教育心理学などを学ぶうちに、子どもの心の発達に大きな興味が湧き、子どもに関する研究がしたいと考えるようになりました。そして修士課程に進んだ頃に、ちょうど私自身が出産を迎え、研究と子育てを同時にスタートすることになったのです。発達の研究をする自分のすぐそばに、まさにぐんぐんと発達していく子どもがいるわけですから、面白さに拍車がかかります。研究者の目線で見る子どもの発達と、親の目線で見る子どもの成長、どちらも非常に興味深く、発達研究にのめり込んでいきました。

大人は忘れてしまう「子どもが見ている世界」を垣間見る発達研究

――発達研究の魅力はどんなところにありますか

やはり、子どもの反応の面白さですね。長年研究を続けていても「なんでこんなことをするんだろう?」と思うような、ユニークな反応をする子どもがいるのです。
子どもが見ている世界を、大人も全員見てきたはずなのに、その多くは忘れてしまっています。とりわけ3歳以前の記憶はないに等しいですよね。「子どもが見ている世界」をのぞくことができるのが、発達研究の最大の魅力です。

――今後の抱負や展望を教えてください。

これまでの発達研究は「これくらいの月齢ではこれができるようになる」とか、「この状況ではこのように反応する赤ちゃんが多い」といった集団の傾向性を明らかにすることが中心的でした。しかし、さまざまな計測や解析の技術が進歩してきて、個々の反応をより豊かに見ることが可能になりつつあります。個の発達と集団の発達、それぞれを比べながら、その背後にある原理を探ってみたいと考えています。

――授業で大切にしていることは何ですか?

発達研究をする上で強く意識しているのは、子どもと大人では見えている世界が違うかもしれない、ということです。ですから学生にも「いろいろな見え方がある」「常識を疑え」ということは常に伝えています。ついつい、自分に見えているように、他の人にも見えていると思い込みがちですが、年齢だけでなく、障害の有無や文化的背景などによっても世界は違って見えるものです。
また、知識を身につけることで自分の選択肢が広がる、ということも折に触れて話しています。知ることも大事ですが、一生役立つのは、知る方法を知ること。学生には、それを理解して積極的に学んでほしいと思っています。

――受験生にメッセージを。

視野を広げて、将来進む道を探しましょう。学力や偏差値だけではなく、自分の中にさまざまな軸を持ち、自らが知りたいと熱望することに挑戦してください。

主な研究分野

認知科学、発達心理学

主な論文・解説

  • The contingency symmetry bias (affirming the consequent fallacy) as a prerequisite for word learning: A comparative study of pre-linguistic human infants and chimpanzees.(2021年)
  • Touching! An augmented reality system for unveiling face topography in very young children. (2019年)
  • Sound Symbolism Facilitates Word Learning in 14-Month-Olds.(2015年)
  • The image-scratch paradigm: a new paradigm for evaluating infants’ motivated gaze control. (2014年) ほか

主な著書

  • Cross-referenced body and action for the unified self: empirical, developmental, and clinical perspectives.(2020年)
  • 生理心理学と精神心理学第3巻 11章乳幼児の視線発達(2018年)
  • なるほど!赤ちゃん学 ここまでわかった赤ちゃんの不思議 「自分」を知る赤ちゃん(2012年)
  • ソーシャルブレインズ 自己像認知の発達―「いま・ここ」にいる私(2009年)
  • Video self-recognition in 2-year-olds : detection of spatiotemporal contingency(2007年) ほか