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食べることを支え、寄り添う。がん治療に一石を投じた「がん栄養治療」

家政学部 食物学科

川口 美喜子 教授

2021/04/01

「食べる」に寄り添うがん治療

大妻の食物学科出身の私は学生時代、病院で治療食の調理のアルバイトをしていました。その際、糖尿病は食事で治すことができる病気だということを知り、食で人々の健康に関与する職業に就きたいと思うようになりました。卒業後、島根大学医学部で研究生として従事し、同大学や看護の大学で教鞭をとりながら動物実験や細胞実験に携わりました。その後、島根大学医学部附属病院の栄養治療室室長になった際、がん患者に対する食事での栄養介入が行われていないことを知り、大きなショックを受けました。当時は治療が最優先で、副作用で食べたくても食べられないことは仕方がないと考えられていたため、がん患者の食事に対して積極的な栄養食事支援は実施されていませんでした。そこで私は、それまで見落とされていた、がん患者に対する「食べる治療」を始めました。一人ひとりの患者さんの状態に合わせ、食べたいものを、食べられるよう調理して提供する。例えば、何も食べたくないと言っていた小児がんの男の子が、キャラクターのオムライスを喜んで食べたことや、がん末期の患者さんが、梅がゆをなめることで味を感じ喜ぶ姿に、がん栄養治療の意義を感じました。患者さんの多くが食べる喜びを取り戻すことで治療の効果が上がる姿を目の当たりにして、積極的な治療を支える食事栄養もまた治療のひとつであると確信しました。
食べることで救われれば治療が進む。この事実を日本中に広めたいという思いで、効果をデータ化し、学会のワークショップなどで積極的に講演を行いました。がん治療に携わる多くの医師や研究者の賛同をいただいたこともあり、2016年度の診療報酬改定の際、がん患者に寄り添う栄養士が行う食事治療の研究データとして参考資料に採用されました。

大妻だから学べる高度な知識

がん患者の食事は、ただ栄養学の知識を駆使し、美味しくて食べやすいものを作れば良い、というものではありません。がんの種類や病態を理解し、患者さんの病態に合わせた栄養治療を行うこと、さらに、治療が行えない末期患者が一番食べたいものが食べられなくなった時の、最後の食べる喜びを提供すること。一人ひとりの「食べる」に寄り添うための知識である臨床栄養学が不可欠です。
大妻の臨床栄養学は質実ともに日本のトップクラスです。充実した設備と環境の中での実習の多さは、他大学には類を見ません。2020年には東京歯科大学との間で、日本で初めての取り組みとなる「栄養学」と「口腔歯科」が連携した学びの仕組みができ、本学学生が同大学の講義を受講できるなど、口腔・嚥下(えんげ)機能の理解と他職種との連携についても深く学べるようになり、より専門的な知識の習得が可能になりました。
人の健康の中心には「食べる」ことがあります。その生きる主軸を学び、大切な人や、周囲に、社会に貢献していく人になりたい、そんな方にぜひ大妻で学んでいただきたいです。

主な研究分野

病態栄養学、がん栄養、地域在宅栄養学

主な論文・解説

  • 子供の生活習慣病についてー小児の食生活の問題点(2008年)
  • 食事の中の水と塩(2014年)
  • CKDにおける脂質異常症の食事療法(2014年)
  • 栄養管理のアウトカム 緩和ケアにかかわって(2014年)
  • 肺癌の栄養ケアマネジメント(2012年)
  • 食べることをあきらめない緩和医療の食事:寄り添うことの大切さ(2013年)
  • 食べる楽しみ 終末期患者への食事提供(2013年) ほか

主な著書

  • 症例から学ぶ臨床栄養教育テキスト(2015年)
  • 今日の病態栄養療法(2003年)
  • NST活動のための栄養療法データブック(2008年)
  • がん専任栄養士が患者さんの声を聞いてつくった73の食事レシピ(2011年)
  • いっしょに食べよう(2018年)
  • 老後と介護を劇的に変える食事術(2018年)
  • 認知症を予防する食事(2020年)
  • 高齢者がんプラクティス
  • シリーズ 超高齢社会のデザイン
  • 栄養管理ビジュアルガイド(2018年)
  • Nブック四訂臨床栄養管理(2020年)
  • 患者さんと家族のためのよくわかる口腔がん治療(2019年)
  • 小児向け口腔機能管理BOOK ほか

特許

  • 栄養バランス食提供用食器セット(2012年)