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よりよい里親制度の在り方や支援を考え、 子どもの権利と笑顔を守る社会をつくる

人間関係学部 人間福祉学科

山本 真知子准教授

2023/12/19

意見を伝えるための子どもたちに必要な支援とは

――研究内容を教えてください。

専門分野は子ども家庭福祉、社会的養育です。特に、さまざまな事情で実の親と離れて生活する子どもを、自分の家庭に迎え入れて養育する里親制度や子どもの権利擁護に関する研究を行っています。国連の「子どもの権利条約」には、子どもが家庭で生活できなくなった場合は、施設よりも養子縁組や里親の元で育つことが望ましいとありますが、日本はほかの先進諸国と比べると里親や養子縁組が非常に少ないのが現状です。実の親と離れて暮らす約4万2,000人の子どものうち、約8割が乳児院や児童養護施設で生活を送っています。里親制度が正しく理解され、認知が広がるよう、里親家庭の子どもの支援と権利擁護をテーマに研究を進めています。

――具体的にはどのようなことを研究されているのでしょうか。

里親家庭で生活するすべての子どもが求めているサポートを追究し、どのような支援を行うとよりよい生活になるかを明らかにする研究です。里子として暮らす子どもの元には児童相談所の職員などが定期的に訪問します。しかし、本音を受け止められるほど時間をかけ、深く踏み込むことは難しく、子どもが気持ちを伝えられるほかの受け皿が十分にあるわけでもありません。また、里親家庭には里子と一緒に暮らす実子がいることも少なくないのですが、実子に対するサポートは何もないのが実情です。里子のことを誰かに質問された時にどう話すか、家庭環境に対する周囲の視線や誤解など、実子には相談する相手がおらず、一人で苦悩を抱えているケースも多くあります。そういった子どもたち、里子も実子も関係なく支援できるよう、同じ立場の子どもが集まれる企画や場所を提供したり、一人ひとりへのインタビュー調査などを行ったりしています。

里親家庭の実子として育った経験を研究に生かす

――研究のきっかけについて教えてください。

私の両親は30年以上、里親として18人の里子を養育し、私も一緒に生活してきました。そして、子どものための里親制度にもかかわらず、制度の内容が本人たちに届いていないことや、社会や地域の里親に対する認識が誤っているために受ける差別を間近で見聞きしてきました。例えば、「里子が里親に経済的な負担をかけているという思い込みから遠慮してしまう」「家族で外食に出かけると、どのような家族関係なのかと訝しがる視線を受ける」「里子との関係性に悩んでも、その子どもたちの暮らす場所がなくなってしまうことを恐れて両親に相談できなかった」など、実子という当事者でなければ分からない問題を体験してきました。このような経験から、里親制度をよりよい制度に変えていくために必要なことを知りたいという気持ちが膨らみ、研究に取り組むことにしました。里親家庭の研究者はいますが、実子の気持ちやサポートの研究者は世界的にも非常に少ないようで、社会に貢献できるやりがいを感じます。

――どのようなところに研究の魅力がありますか。

今、日本では虐待や貧困、ひきこもり、ヤングケアラーなど、子どもを取り巻く厳しい環境に注目が集まっています。私の研究は、一人で行うよりも、ほかの研究者や関係施設、このテーマに関心を持つ学生たちなどさまざまな人と一緒に取り組むことが重要です。困難な問題を抱えている子どもを笑顔にできることや、社会全体で子どもの未来を考え、支援していくところが大きな魅力です。早急な政策支援や社会基盤を整備するために、2023年にはこども家庭庁が新設され、子ども家庭福祉分野は変化の時を迎えています。この流れの中で研究を進める使命も感じています。

子どもを育む社会づくりに研究と実践で関わる

――学生たちの教育で大切にしていることを教えてください。

最近のニュースを見聞きして、社会問題として子どもを取り巻く環境について関心の高い学生が多く、子どもに関わりたい、支援がしたいというマインドを持つ学生たちと一緒に地域連携プロジェクトに携わっています。プロジェクトは、里親家庭の子どもの支援という目的のもと、子どもと一緒に1日中、自由な遊びをしたり、さまざまな里親家庭の里子同士、実子同士が交流する機会を設けたりするものです。同じ環境にある子ども同士だからこそ分かり合える気持ちや、しがらみのない第三者の学生と接することで、子どもが日ごろ抱えている悩みを発散させ、自由な気持ちを持てるようサポートします。学生にとっても、子ども、里親、児童相談所、里親支援機関の支援者と直接関わる機会となり、子ども家庭福祉分野での学びが深まります。2023年度からは多摩市との共同プロジェクトで、学生と一緒に保育所を訪問して児童虐待防止の教育プログラムを行っています。学生自身の多様な実践活動から社会的養護の理解を深めていくことを大切にしています。


――今後の研究の目標を教えてください。

児童養護施設や里親家庭で生活する子どもたちを一人でも減らし、実の親と幸せに生活できる社会の実現が大きな目標です。子どもの健やかな成長には、居場所となる家庭、地域、社会が不可欠で、それらを整える大人の力が欠かせません。研究や支援活動を通じて、子どもが育つ家庭が不平等にならず、地域や学校、保育現場で子どもの声が十分に聴き取られ、大切にされる社会になるための環境づくりに寄与していきたいです。