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機能性繊維の優れた特性でいかに生活の質(QOL)を改善できるか。衣服と皮膚の関係を実験から解き明かす

家政学部 被服学科

水谷 千代美 教授

2022/06/10

「におい」や「かゆみ」など、皮膚で発生する問題を機能性繊維の力で解決する

――どのような研究をしていますか。

被服学は人間と衣服と環境との関係を総合的に研究する学問です。そのなかで私は、「衣服と皮膚との関係」を主な研究テーマに、衣服の素材である繊維の機能に着目した研究を続けています。繊維には、消臭性、抗ウイルス性、保温性、撥水性などさまざまな特性を持ったものがあります。このような繊維を機能性繊維と呼びますが、その特性を評価し、優れた特性を被服分野に応用して生活の質の向上につなげることを目指しています。

たくさん汗をかいて、そのままにしておくとちょっと身体がにおう……といった経験はないでしょうか。これは、汗や皮脂などの老廃物が皮膚常在菌によって分解されることで、不快に感じるにおいが発生するからです。人間が発する不快臭を、消臭抗菌性がある機能性繊維を用いた衣服で効率よく抑制できるかどうかを測定することも研究の一つです。また、化学繊維を用いた衣服を着用した時に発生する皮膚のかゆみに着目し、かゆみの発生原因やかゆみを抑制する衣服の機能についても調べています。年々、増加傾向にあるアトピー性皮膚炎の患者が抱える、かゆくて眠れないという悩みに対して、かゆみが軽減する繊維を用いたパジャマや寝具を使うことで睡眠の質がどのように変化するかという実験を行っています。皮膚で発生する諸問題を、皮膚に一番近い衣服で解決することが目的です。

――――研究成果が役立つ分野はどこですか。

科学技術の進歩によって、私たちの生活の質(QOL)は大きく向上しました。一方で、新たな社会問題も発生しています。平均寿命が延びたことで超高齢化社会が進み、思うように身体を動かすことのできない高齢者の増加や、環境問題の影響を受け、乳幼児の免疫不全が拡大し、強いかゆみを伴うアレルギー性皮膚炎や皮膚疾患の発症増加といった問題が一例として挙げられます。高齢者施設や病院では、排泄物臭や汗臭、体臭といった不快臭が発生し、介護者に不快感を与えるだけでなく、家族が面会を躊躇し、距離ができてしまうという事態をも引き起こしています。また、若い世代のアトピー性皮膚炎患者は、湿疹が人目につくことを気にして、外出を控えるようになったり、大半が化学繊維でつくられている学童用運動着の着用義務によって症状が悪化したりといった問題も抱えています。 このような背景から、主に社会的弱者である高齢者や子どもを対象に、機能性繊維を医療や介護分野に応用することを考えた研究に取り組んでいます。

研究の社会的意義を問う意識を常に持つことが大切

――研究の面白さを教えてください。

機能性繊維を用いた衣服の研究は、温度や湿度など人が着用した条件で調べないと成果が出ないという点です。研究の手順はまず、機能性繊維のさまざまな特性を実験室内で調べます。次に、被験者に着用してもらい、人の感性や感覚を使って機能性繊維が皮膚に与える影響などを調べるのですが、実験室で得られた結果と着用テストでは結果が異なる場合があるのです。想定外の結果になった場合は、また改めて実験計画を立て、次の実験につなげていきます。想定通りの結果、想定外の結果、どちらを得ても研究の深まりを感じられるのが面白みです。

また、フィールドテストを実施する高齢者施設などでは、どんなことに困っているかを直接お聞きして、それを解決する提案や対策につなげると本当に喜んでくださいます。研究成果を人や社会に役立てたいという気持ちがこの研究の原点であり、常に意識するポイントでもあります。

――研究のアウトプットはどのように行っていますか。

所属学会での発表や国内外で論文公開のほかに、ほかの研究者や企業の方々と共に介護用品の開発や特許申請のためのリサーチなども行っています。また、ゼミで教えている学生と一緒に実験を行って、データ分析や解析をした結果、成果を得られたものに関しては外部発表につなげています。

学生たちにも、自分たちの研究や学びが社会問題にどう寄与するかを意識するよう伝えています。東日本大震災で被災した子どもたちへオリジナルTシャツを贈るプロジェクトでは、抗菌・防臭・防汚効果のある機能性繊維の生地について着用実験や洗濯実験などを実施して、肌にやさしく、汗をかいても快適に過ごせるかどうかを実際に検証し、生地からデザインまでプロデュースする取り組みを行いました。

ファッションや環境問題を切り口に、これからの地球を支える素材に関心を

――学生たちの教育で大切にしていることを教えてください。

私のゼミでは、さまざまな実験を行って、得られたデータを解析、分析、考察していきます。研究を進める際に大切なのは基本的な繊維の知識、情報処理、統計処理の知識などの基礎力があること。まずは基礎力をきちんとつけた上で、グループで取り組む実験のなかで、個々の能力を伸ばせるポジションを担ってもらうことを意識しています。学生たちと一緒に実験をしていると、一人一人の良さが見えてきます。その部分を任せるようにすると、素晴らしいデータを作成したり、一生懸命、分析に取り組んでくれたりと驚くほど成長していきます。大学で学んだことを実践する力を養い、責任感や協調性、人間力を高めていってほしいですね。

――受験生へのメッセージをお願いします。

ファッションやおしゃれが好きという人は多いと思います。被服学は、衣服に関する幅広い知識や技術を学ぶことができ、被服への科学的な見方も身に付きます。そのなかで、衣服の着心地や機能に関わる繊維素材という領域があることを知っていただければと思います。布や洋服だけでなく、日用品や自動車、航空機、環境保全などさまざまな場面で使用されているのが繊維です。高齢者や子どもたちの生活の質の向上、社会課題の解決にも貢献できる、これからの地球を支える大切な素材です。
今では当たり前になったSDGsへの取り組みも、環境問題と密接な関係があるアパレル業界では早い段階から注目し、さまざまな活動をしています。特に繊維・テキスタイル業界では、衣服素材を製造する際に環境に負荷をかけない製法や、石油を原料としない繊維素材の開発などが行われています。環境にやさしい素材は、肌にもやさしいということが分かってきていて、SDGsに関わる研究の可能性も広がっています。