大学紹介
入試・入学
学部・短大・大学院
研究
就職・キャリア
​学生生活
​留学・国際交流
地域連携・社会貢献

生活や遊びから生まれる子どものアート。 異文化の視点から見つめ、創造力を育む教育へ

家政学部 児童学科 児童教育専攻

金田 卓也 教授

2022/07/07

アフガニスタン、パキスタン、ネパール……たくましく生きる子どもたちの笑顔が研究の原動力

――研究内容について教えてください。

専門分野は芸術教育です。芸術教育には、絵を描く、音楽を奏でる、ものを作る、小説や詩を書くなど、さまざまな芸術分野での技術や能力を伸ばす指導と、芸術を通じて感性や想像力、創造力を育成する指導の両側面があります。中でも特に、子どもたちが絵を描いたり、ものを作ったりする造形活動について、異なる文化の視点から研究を続けてきました。アート、異文化、子どもをテーマにした多元文化的芸術教育の研究です。
例えば、児童の多国籍化が進む日本の小学校で‘自画像を描く’という授業があったとします。日本人の子どもにとってはごく当たり前ですが、偶像崇拝が禁じられているイスラム教徒の子どもにとっては受け入れ難い内容です。この場合、顔の代わりに手などを描くことにする、という配慮が必要になるでしょう。同じ ‘絵を描く’という造形活動でも、文化が異なるとアートの持つ意味も変わってくるのです。このような視点を得るために、さまざまな国や地域の子どもを対象にしたフィールドワークや、国内外のアートプロジェクトに参加して調査を続けています。

――なぜ、この研究を始めたのでしょうか。

まず、アートの研究には多様な捉え方があることをお話します。作品をつくることが重要だという意見、作られた作品を対象にして検証を積み重ね学問として深めることに意味があるという意見など、さまざまな議論があります。私は、大学時代に芸術学を専攻し、絵画や彫刻などを制作する実技と、芸術的表現についての理論や歴史といった学問の双方を学んでいました。そのため、私にとってのアート研究とは、実際に作品を制作することと、調査や検証を行って考察していくことの両方にあたります。
その上で、今の研究の原点は、学生時代にアフガニスタン、パキスタン、インドなどを旅した経験にあります。これらの発展途上国には幼稚園や保育園もなく、学校に行きたくても貧しくて行けない子どもたちがたくさんいます。大人の見よう見まねで小さな子どもが刃物を使って木を削って遊んでいたり、女の子が生活の中にあるものでアクセサリーを作っていたりする姿を見て、近代学校教育の進んでいない地域の子どもとアートの関わりに興味を持つようになりました。子どもたちが生活や遊びの中でどのように造形活動に関わっているかを調査することで、子どもたちの創造力を伸ばす教育活動につなげられないか、模索しています。

子どもについて考えることは、私たちの未来を考えることでもあります。よりよい社会を築くには教育の力が不可欠なので、私にとって子どもを対象にした芸術教育の研究は、これからの社会を支える力の一端を追究することだと感じています。また、行く先々で出会った、厳しい現実の中でたくましく生きる子どもたちの笑顔が研究の原動力になっています。

実践的研究として国内外のアートプロジェクトに参加。その成果を授業に還元する

――具体的にどのような研究を行っていますか。

‘アート’が意味するものはとても広いのですが、私は自己表現としてのアートだけでなく、社会関与型アートと呼ばれる参加型アートプロジェクトに高い関心を持っています。このため、実践的研究の一部として、子どもによる絵画制作を通して平和のメッセージを描く「キッズゲルニカ国際こども平和壁画制作プロジェクト」など、子どもたちが関わる国内外のアートプロジェクトに携わっています。

ここ数年、力を入れているのがネパールの山奥にあるムラバリ村の村おこしです。2015年にネパール地震の被害を受けたムラバリ村を、アートの側面から復興支援しようとゼミの学生たちと取り組み始めました。ポイントは、貧しくて学校に通えない子どもや、男性中心の社会でさまざまな問題を抱える女性たちの自立を支援する、持続可能なプロジェクトであること。学生たちからさまざまなアイデアが出て、最終的には村で育つウコンを使って布を染めカーテンをつくり、黄色をシンボルカラーにマリーゴールド、バナナ、みかんを栽培するといった方法で現金収入を得る仕事をつくり出します。

学生たちは、アイデアが形になってムラバリ村の人々を支えていくという実体験を通じ、復興支援やSDGsの本質に真剣に向き合う姿勢へと成長していきました。「Yellow Dream Project〜持続可能な女性支援プロジェクト〜」として立ち上げたこのプロジェクトは、学生たちの意欲的な取り組みもあり、「大学SDGs ACTION! AWARDS 2020」(朝日新聞社主催)でスタディツアー賞を受賞するという結果にもつながりました。

――学生の皆さんに、アートプロジェクトへの積極的な参加を呼びかけているのですね。

はい。学生たちには、私が参加した国内外のアートプロジェクトでの経験を紹介し、子どもたちの想像力と創造力を豊かにする造形活動の教育的意義を伝えています。そして、できるだけ学生たちも参加することを勧めています。想像力と創造力は、子どもだけでなく、学生にとっても大切なもの。アートプロジェクトに参加することで、学生自身の内なる想像力や創造力が刺激され、問題解決能力が高まっていきます。これから社会に出て、さまざまな問題に出会う学生たちには、ぜひ身に付けてほしい力です。  

――研究の魅力を教えてください。

研究を深めていく上で常に考えているのは、自分自身の創造力をどう生かすかです。そのためにも、私自身が常にクリエイティブな状態であることが重要で、一つの視点にとらわれず複数の視点からものごとを見ることや、アイデアを目に見える形にしていくことが欠かせません。容易ではありませんが、これこそアートに関する研究の魅力だといえます。また、研究の対象が子どもなので、国内外で数多くの子どもたちの笑顔に出会えることもモチベーションになっています。

ワクワクするアート体験を通じて、知的でクリエイティブな人間へと成長を

――学生たちの教育で大切にしていることを教えてください。

私のゼミでは、2年間の学びを通じて、こう成長してほしいという目標があります。それは、「知的でクリエイティブ」な女性。大学での学びやアートプロジェクトへの参加などさまざまな体験を通じて、目標達成を目指しています。といっても、難しく考えるのではなく、ワクワクするようなことにどんどん参加し、そこで何か課題を発見したら、創造力を使って解決していくということの繰り返しが大切なのです。
ゼミ活動の一つとして、世界各国のアーティストたちと学生たちが共に取り組む「Hearts for the Earth」というアートプロジェクトでもさまざまな発見があります。このプロジェクトは、「ハート」を持続可能な発展のシンボルとしてさまざまな素材を使って表現するもの。今年5月には、地域イベントの中で子どもたちが参加できるアートイベントを学生と一緒に企画しました。絵の具を溶かした色水を参加者が持ち寄ったペットボトルに入れて子どもたちと一緒にハートの形に並べるという内容ですが、準備段階で「色水は環境に良いの?」という疑問が出現。学生たちは、「自然由来の植物染料でやろう」「口に入っても安心な食紅はどう?」と解決案を次々に出し、「せっかくだからおそろいのスタッフTシャツをつくろう!」という提案も飛び出るなど、創造力を膨らませて楽しんでいました。

――受験生へのメッセージをお願いします。

私の研究では、芸術教育によって子どもたちが不得意、苦手と感じることもプラスの方向に転じ、伸ばしていくことの教育的意義を追究しています。アートプロジェクトの参加やSDGsの取り組みなど、新しいことにチャレンジすることで本質が見えてくるのがアートの力でもあります。自分には難しそう、ハードルが高いなどと思うことなく、門戸をたたいてみてください。皆さんの中にある想像力、創造力を豊かに育んでいきましょう。

自生するウコンで布を染めカーテンをつくるネパールの女性たち
ウコン染めの布を広げる村の子どもたち
Hearts for the Earthプロジェクト