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ジェンダーやフェミニズムの視点から、文学と社会とのつながりを見つめる
近現代の雑誌の投稿欄や読者の声から、当時の女性像に向き合う
日本文学の中でも、近現代の文学を研究しています。「文学研究」というと、著名な文学作品を深く読み解き、作家について調べるというイメージが強いかもしれません。しかし、それにとどまらず、作品に書かれている内容と当時の人々の生き方や人々が抱えた問題がどのように関係しているか、社会に何を問いかけているのか、そして現代社会の問題とどうつながっているのかなど、社会との関係性を考えることも文学研究の一つです。このように、文学を軸に社会全体に目を向けていく方法の一つとして、私はジェンダーやフェミニズムの視点に興味を持ち、女性や教育と近現代文学との関係を追究しています。
――具体的にどのような研究をされているのでしょうか。最近では1950年前後の雑誌や文学が描き出す「女子大生」や「ビジネスガール(BG)」と呼ばれた女性たちに注目し、雑誌の中でどのように語られたのか、誌面が示す模範像や批判的言説から何が見えるか、大学図書館や文学館などで当時の本や雑誌、新聞記事などを調べています。また、当時の雑誌に掲載された「読者の声」や「投稿欄」にはどのような傾向があって、読者は何に触発されて書いているのかなど、雑誌の隅々まで読み、学び・働くために歩み出した女性たちの姿を捉えることを試みています。戦後復興のこの時期は、女性が教育を受ける機会が少しずつ増え、地位向上を求める声が高まる中で、女性の社会進出や男女平等の動きなど社会状況が大きく変わりつつありました。一方で、伝統的な価値観や社会構造も浸透しており、そのような時代に雑誌や文学表現は「女子大生」や「BG」の存在をどのように描き、何を見出そうとしたのか、戦後社会に内在する女性と教育、労働に向けられた視点を明らかにすることを目指しています。
研究テーマや対象が多様化し、進化し続ける文学研究
近現代文学をめぐる研究は、ここ数十年間で研究対象や方法、テーマが多様化し、海外にも研究発表の場が広がるなど大きく変化しています。私が大学院に進学する頃、文学と社会とのつながりを考えることや、それまでは光が当たらなかった雑誌や少女、子どもといった対象にも研究の幅が広がっていました。そのような機運の中で多くの先生方や研究仲間の研究会に参加するうちに、女性と文学、女性を取り巻く社会の関係について少しずつ興味を持ち、深く学びたいと思うようになりました。
左、「消費されることと捉え返すこと——瀬戸内晴美はどう語られてきたか」『ユリイカ』2022年3月臨時増刊号、青土社。右、「メディア論 雑誌とアダプテーションからみえるもの」、飯田祐子・小平麻衣子編『ジェンダー×小説 ガイドブック 日本近現代文学の読み方』2023年5月、ひつじ書房
現在取り組んでいる研究テーマが、今につながる問題を投げかけているところです。戦後、「女性解放」という理念は流通しても、観念的なジェンダー概念による「男性は~あるべきだ」「女性は~しなければならない」というような考え方や振る舞いは根強く残りました。そうした中で、雑誌や文学表現が描く「女子大生」や「BG」イメージの共有や揺れに注目し、文化的構造を分析していくのですが、性をめぐる固定的なイメージが、解消されたかというと、そうではありません。過去から今を照らし出す点にひきつけられます。
「考える」「書く」に向き合い、自身を支える力を養う
授業では、ジェンダーの視点を取り入れた文学研究に学生たちと取り組んでいます。たとえば、1911年に平塚らいてうたちが創刊した『青鞜』という女性文芸誌の復刻版を用いた授業を行っています。『青鞜』に掲載された作品を通じて、さまざまな境遇や立場、考えを持つ女性たちが何を書いたのか、女性にとって書くという行為が持つ意味や、女性が書くことに向けられた社会の視線などについて、学生たちは意見を出し合いながら学んでいます。学生たちの発表を聞くたびに、文学が投げかける問いは、今を生きる学生たちにとっても非常に身近で、重要な問題であると感じます。授業を通じて学んだ視点や考えること、書くことが、学生たちが社会に出た時に自身を支える力となるよう、よりよい授業づくりを心がけたいと思います。
高校生の皆さんが日常生活で感じる「?」を大切にしてください。その「?」が、大学の多様な学問と結びついたとき、皆さんの中にあるもやもやとした疑問を自分の力で言語化できるようになります。日本文学科には、古代から近現代文学、そして日本語学と漢文学を専門とする教員が揃っているので、皆さんの興味や関心に応じて学びを深めることができます。また、就職支援センターの手厚いサポートや学生自身の取り組みによって、卒業後も企業や教職、公務員など様々な場で活躍しています。大学の四年間、皆さんと一緒に学ぶことができればうれしいです。