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【学長通信】金利と暮らし

学長通信

最近、ネットやテレビ・新聞のニュースで、「金利」という言葉を見たり聞いたりすることが多くなりました。例えば、10月31日のニュース(NHK)では、「日銀は31日まで開いた金融政策決定会合で、いまの金融政策を維持することを決めました。政策金利を据え置き、短期の市場金利を0.25%程度で推移するよう促します。植田総裁は、今後の利上げの判断にあたってアメリカ経済の先行きをめぐるリスクを念頭に、これまで繰り返し「時間的な余裕がある」と発言し慎重に検討する考えを示していましたが、31日の決定会合後の会見ではアメリカ経済のリスクは低下しているという認識を示しました」という報道がありました。

また、11月9日の新聞(日経)では「米国連邦準備制度理事会(FRB)は11月6~7日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利のフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を0.25ポイント引き下げ、4.50~4.75%とすると決定した。市場では、今回の会合で0.25ポイント引き下げを行うとの見方が大勢で、予想どおりの引き下げ幅となった。今回の決定は全会一致だった」との記事を掲載しています。さらに、11月17日の記事(日経)では、「異次元の金融緩和政策を正常化する日本銀行の取り組みが本格化してきた。2024年3月にマイナス金利解除、7月には追加利上げを決めた。政策金利のさらなる引き上げの行方に関心が集まる」として、2024年12月あるいは25年1月の再利上げの可能性が大きいと指摘しています。

日銀のニュースでもFRBのニュースでも「政策金利」という言葉が出てきます。「政策金利」とは一体何でしょうか。誘導目標金利といわれることもあります。特定の金利を動かすことで、世の中のさまざまな「金利」に影響を与える、それらの「金利」の変化を通して、経済活動に影響を与えるという意味から、「政策金利」という言い方がされます。日本銀行の場合、「無担保コール翌日物金利」が「政策金利」となっており、FRBの場合は、「FF金利」(民間銀行間の資金やり取りの際の短期金利)が「政策金利」となっています。

どの国の中央銀行も、その金融政策の運営にあたって、それぞれ法的使命が課されています。例えば、現在の日本銀行法をみると、第一条で「銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする」、「金融機関間の資金決済の円滑化を通じた信用秩序の維持を目的とする」とあり、第二条で「物価の安定を図ることを理念とする」とされています。FRB(アメリカは地域別に12の連邦準備銀行があり、FRB自体は中央銀行ではありません)では、最大限の雇用(maximum employment)と物価安定(stable prices)の2つが目的とされており、デュアル・マンデート(dual mandate、2つの使命)と呼ばれています。

FRBは、最大限雇用の実現も目標としていますが、両者に共通するのは物価の安定です。では、金利を動かすとどのように経済活動に影響を与えることができるのでしょうか。2023年4月に就任した植田日銀総裁は、同年5月19日の講演で、次のように語っています。「例えば、金利を引き下げますと、企業が設備投資を行ったり、家計が住宅を購入したりする際の借り入れ金利が低下し、需要を刺激します。これにより、雇用が生まれ、経済活動が活発化することになります。反対に、金利の引き上げは、需要を減らし、経済活動や雇用を抑制する方向に働きます」。

2024年3月、日本銀行はそれまでマイナス0.1%だった短期金利を0~0.1%に引き上げ、日本の歴史的マイナス金利時代に終止符を打ちました。 17年ぶりの利上げで、「異次元金融緩和」に終止符を打ち、「金融正常化」への第一歩を踏み出したと捉えられました。「異次元金融緩和」の柱となったマイナス金利は、中央銀行が経済成長を刺激し、デフレと闘うための金融政策として位置づけられ、市中銀行や金融機関が多額の準備金(預金)を保有することに対して課されました。普通はお金を預ければ金利が付くのに、預かり料を取ろうということですから、市中の民間銀行は預金(中央銀行への当座預金)をしないで、貸出や支出に使いなさいと促したことになります。

金利は、お金を貸し借りするときの手数料のようなものです。お金の使用料ともいえます。ですから、直接には、家計の住宅ローン、企業の給与支払いや原材料購入、設備投資などの条件に影響を与えることから、金利の機能は説明されますが、最近では、為替レートに与える影響、あるいは株価や債券価格に与える影響が多く語られるようになりました。

金利を動かすと、為替レートが動くのはどうしてでしょう。じつは、為替レートがどのように決まるのかについては、これまで長く議論が繰り返されており、確定的な結論はまだ出ていないといってもいいくらいです。日本は1949年から1971年までは、ブレトンウッズ体制(IMF協定)に参加し、1ドル360円の固定相場制でしたが、その後は、現在まで変動相場制の下にあります。固定相場制の時代ですと、両国の物価を比較して適正なところで為替レートが決まるという考え方が有力でした。これを購買力平価といいます。変動相場制になっても長期的にはこれが成り立つという考えもありますが、短期的には、日々の為替市場での各通貨の売買によって為替レートが決まると考えるのが一般的です。

金利の変動が、為替市場での通貨売買に影響を与えると考えれば、為替レートの変動との関係は、一応理解できます。例えば、FRBが政策金利を上げると、相対的に米ドルの価値が高まり、円安・ドル高になる(ドルが買われ、円が売られる)。逆に、下げると、円高・ドル安になるといった経路です。ただし、FRBが政策金利を下げると、アメリカ経済は不調だから日本の経済も不調になるだろうと考え、日本の株価も下落するという経路も考えられます。この場合は、直ちに、円高・ドル安になるとは言えません。人々の将来の経済状況に対する予測は、さまざまの経路で為替市場での通貨売買に働きかけるため、その動きは一義的には決まらないのです。

最近の中央銀行の政策金利の動向、そしてそれが物価や為替レートや株価など、経済動向にどのように影響を与えていくかの最新の状況については、翁邦雄『金利を考える』(ちくま新書1819、2024年)が、わかりやすく説明しています。現在の金融政策についての考え方も知ることができます。一読を薦めます。

学長  伊藤 正直