学科横断型特別講義「映画上映会と山崎エマ監督のトークイベント」 家政学部・児童学科×ライフデザイン学科
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家政学部児童学科の「道徳教育論(矢野博之教授)」・「児童学専門演習Ⅰ(坂田哲人准教授)」および家政学部ライフデザイン学科「生活と工芸(須藤良子准教授)」の合同授業として、7月8日に日本の教育制度を通じて子どもたちが社会性を育むプロセスを描いたドキュメンタリー映画『小学校~それは小さな社会~』の上映会および山崎エマ監督(※)のトークイベント、質疑応答を盛り込んだ、学科横断型の特別講義を開催しました。
※東京を拠点とするドキュメンタリー監督。今回上映した3本目の長編監督作品、『小学校〜それは小さな社会〜』は教育やドキュメンタリーの分野を越えて広く注目を集めた。短編作品『Instruments of a Beating Heart』は第97回米アカデミー賞の短編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされ、国際的にも高い評価を得た。
ライフデザイン学科・須藤良子准教授が山崎監督の夫君であるエリック・ニヤリプロデューサーから本映画の話を聞き、実際に見に行きました。当たり前だと思っていた日本の小学校の日常には、子どもたちと先生との信頼関係があり、また日本人らしい正確さや協調性などが生み出されている場だと分かる映画でした。本映画の鑑賞をきっかけに、ライフデザイン学科の学生には学科の理念である「真に豊かな生活」とは何かを学ぶために、また幼稚園や小学校の教諭を目指す児童学科の学生にもぜひ見てもらいたいと思い、学科横断型の特別講義として実現させました。
上映後には、監督の山崎エマさんが登壇し、「日本で小学校教育を受け、中学校からはインターナショナルスクールへ通い、ニューヨークの大学で映画を学びました。アメリカで生活をしているときに、時間に遅れない、責任感がある、周りに配慮があるなど、当たり前だと思っていた価値観が強みになったと実感。これは、日本で小学校教育を受けたことが根底にあるのではと思い、構想から10年をかけてこの映画を制作しました」とお話いただきました。
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山崎エマ監督のトークイベント様子
続いて、山崎エマさんと受講学生とによる質疑応答の様子は以下のとおり。
Q 受講学生(Aさん)
「私が小学校の時の先生の存在は、完璧な人だと思っていましたが、結構人間っぽいところがたくさんあると思いました」
A 山崎監督
「先生方も試行錯誤しながら、何かを乗り越えるように生徒を導くバランスが素晴らしいです。正解がなく将来その子の幸せにつながるようなことを、最前線でやっている。1つの方向に向かって、人々の経験が受け継がれて、次の生徒に反映され、学校という場所が主人公で、舞台で、しかも小さな社会として機能していることが、凝縮した真実のように思えました」
Q 受講学生(Bさん)
「子どもたちが縄跳びや演奏を通して、達成感を得られて笑顔になるところが印象的で感動しました。日本で教育を受けて良かったことを教えていただきたいです」
A 山崎監督
「挑戦する勇気がベースにあったのは、日本の運動会とか音楽会を経験したからだと思います。何かに向き合って、自分が頑張る先の景色みたいなところを目指せました。教育が人を作ると思うので、未来も教育が作ると思っています。日本の未来につながってると思ったので、皆さんにも関心を持って欲しいと思いながら1年間撮影しました」
Q 受講学生(Cさん)
「子どもたちの等身大の姿が、微笑ましく、また懐かしいと思える場面があり、見ごたえがありました。学校にはたくさんの役割があって、生活の学びの場として教育をしていることが分かって良かったです。印象に残った先生の言葉がいくつかあって、『運動会を完璧にするというのはもちろんだけど、どう乗り越えていくかの過程が大事』という言葉が素敵だと思いました。また先生の言葉が優しくて、子どもに寄り添い、尊重して、人間力を育てていくところに感動しました」
A 山崎監督
「自分と違う人たちとどう生きて行くかを練習すること、それが学校の大きな役割だと思います。色々な先生がいてほしいと思うし、人と共にということを社会が学校に求めていると思っていて、勉強だけであれば、オンラインでもできる。でも、それ以外の部分の休み時間とか行事などで、社会に入る練習をしている。オンラインだけでは学べないものがあります。先生は脚本もないのに、経験を積んだ沢山の引き出しから映画でも書けないようなセリフを言います。『一緒に怒られてあげるよ』とか。皆がその子のことを考えて、とても難しいことをやられていて、教育は生ものだなと思いました」
Q 受講学生(Dさん)
「今回の映画でフォーカスした生徒はどのように選んだのですか?」
A 山崎監督
「先生と生徒10人ぐらいがメインで出演していますが、特に木原君と山本さんを取り上げました。放送委員で縄跳びができないから、それに挑戦する。そこにまとまりが出てきました。いろいろな可能性を残して撮影して、最後の最後でどう組み合わせるか。編集はとても時間がかかります。もちろん、親御さんの承諾や協力があって初めてできます。素敵な子がいっぱいいるのですが、映像を取捨選択する作業が難しいです。1年間通して、子どもたちの成長や先生方の深まりを見ていくわけですが、それが印象的かつ自然で、のめり込みました」
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学生の質疑応答の様子
本特別講義を通して、児童学科・矢野博之教授は、「今回、思わぬ“ご縁”で須藤先生からこの企画を提案いただき、坂田先生を通じて実現しました。本作は日本公開された昨年末来、私の周りの業界人・教育関連分野の研究者のあいだでも話題になっており、個人的にも注目していた一作でした。そこで描かれる99分間は、まるで1年間小学校に参入し、ともに過ごしたかのようなアクチュアリティが見事で、登場するこどもたちや先生がたのそれぞれの“進歩”や“高まり”を共感的に受け止めることのできる映像世界でした。教育学で論じられる学校教育についての論点や、特別活動論、「日本の教育」論と、いずれに照らしても、見応えと考えさせられる視点が山盛りの、心地よく、密度の濃い作品です。何よりも、山崎監督とプロデューサーであるエリック氏に本学に足を運んでいただき、直接学生と対話いただいたことはとてもありがたく、200名強の学生たちととても充実した時間になりました。山崎監督とエリックさん、須藤先生に、この場をお借りして、厚くお礼を申し上げます」とコメントされました。