大学紹介
入試・入学
学部・短大・大学院
研究
就職・キャリア
​学生生活
​留学・国際交流
地域連携・社会貢献

科研費 採択状況

本学における科学研究費助成事業の採択状況をご紹介します。

採択課題一覧 令和5(2023)年度

大学

※研究課題名をクリックすると課題詳細がご覧いただけます。

研究種目等研究課題名研究代表者所属職名研究期間
(年度)
基盤研究(B)ゲーミフィケーション・機械学習を利用した幼児の自己身体認識評価課題の開発と評価

ゲーミフィケーション・機械学習を利用した幼児の自己身体認識評価課題の開発と評価

鏡を見て鼻を触るとき、見えない身体部位の位置を把握する体性感覚ベースの身体地図が働く。その発達過程の検討は、方法論上の難しさから観察主体でしか行われてこなかった。本研究では、ゲーミフィケーションを取り入れることで、幼児の身体地図の発達を定量的に評価できる新たな課題を開発、評価する。具体的には、自己映像の身体各部位に拡張現実(AR)を用いてマークを表示し、幼児が実物の自己身体に対応づけて当該部位を定位できるかを評価するゲーム様の課題である。
2020年度は、それまでに取得したデータに基づく研究成果を関連国際学会(vICIS2020)にて発表した。幼児の運動軌跡のデータから動きの変化点を検出し、身体部位のターゲットに対してどのような速さ、正確さで手を伸ばしているのかを詳細に解析し、見出された相関について報告した。また、コロナウイルス感染拡大やそれに伴う行動制限により、新たなデータの取得が困難となったため、実験・解析費用を翌年度に繰り越すことにした。この間、解析手法の再検討や研究の位置づけなどに議論を費やし、研究の意義を掘り下げることに成功した。また、成果を盛り込んだ書籍執筆にも従事した。この書籍は、翌2021年度にOxford University Pressより出版された。
2021年度には、繰り越された実験・研究費を活用し、成人を対象とした統制実験と新たな方法に基づく解析を行った。ここまでの研究成果をまとめた原著論文を現在執筆中である。

CLOSE
宮崎 美智子社会情報学部准教授H31~R5
(繰越延長)
二言語を同時習得する日系国際児の日本語作文力の発達過程の解明

二言語を同時習得する日系国際児の日本語作文力の発達過程の解明

本研究の目的は、現地語(優勢言語)が異なる国際結婚家族の子どもを対象に、3時点(小2→小4→小6)での縦断的作文調査を行うことにより、継承語(日本語)作文力の発達過程の特徴-「二言語の同時習得が日本語作文力の形成に及ぼす一般的な影響」と「優勢言語や現地校の作文教育による固有の影響」-を解明することである。具体的な課題は、以下の通り。【課題1】ドイツ語を優勢言語とする独日国際児の日本語作文力の発達過程を解明すること。【課題2】中国語(繁体字)を優勢言語とする台日国際児の日本語作文力の発達過程を解明すること。【課題3】台日国際児の日本語作文力の発達過程の特徴と家庭での支援過程との関連を把握するために、台日国際家族における支援過程を具体的に明らかにすること。
上記課題を明らかにするために、2年目である2020年度は、以下の2つの調査・研究を行った。
(1)【課題1】と【課題2】に関わる調査・研究:2019年度に実施した【調査1】(独日国際児の縦断的作文調査)の第1回調査と【調査2】(台日国際児の縦断的作文調査)の第1回調査で得た作文データの分析を行った。優勢言語が異なる継承語児が同じ課題で書いた作文データは、これまで収集されていないことから、データとしての価値が高いと言える。各調査の分析結果については、各校に分析レポートとしてフィードバックした。さらに独日国際児と台日国際児の小2児童の比較分析も行い、その結果を「調査報告」としてまとめた(今後、投稿の予定)。また、【調査1】の関連調査として、独日国際児(高1生徒)を対象に縦断的作文調査も行った。
(2)【課題3】に関わる調査・研究:【調査3】(台日国際家族の事例研究)の2年次調査を行い、年度末までに対象家族において収集された行動観察データの整理を行った。

CLOSE
柴山 真琴家政学部教授H31~R5
ファミリービジネスの企業家活動と地域創生に関する実証的研究

ファミリービジネスの企業家活動と地域創生に関する実証的研究

日本社会は、経済の再生と活性化による地域創生が課題であり、企業家活動によって旧来の制度やビジネスシステムを再構築して新たな価値を創造するイノベーションの創出が必要である。地場産業の仕組みや地域の資源を環境に応じて変換し、価値を創造するには地域で長く存続する中小企業の主流であるファミリービジネスの理論を包含した視座から、地域の変革を一過性ではなく持続させる要因を明らかにする必要がある。本研究は、ファミリービジネスの社会情緒的資産が企業家活動にいかに関連し、その企業家活動が地域創生にいかに貢献するかについて、実地調査を基礎に公表資料を併せて内容分析・テキストマイニングで比較分析を試みて考察する。

CLOSE
山田 幸三社会情報学部教授R2~R5
日本の産婆史料のデジタル化と出産記録に基づく助産の歴史社会学的研究

日本の産婆史料のデジタル化と出産記録に基づく助産の歴史社会学的研究

本研究は、戦前期の産婆雑誌の収集、助産所に保管されている助産録、日誌等のデジタル化と収集をおこなう。この作業を通じ、産婆・助産婦が果たしてきた役割と実践を位置づけるとともに、日本の出産の記録として保管し、歴史社会学的に評価し位置づけることを目的とする。産む女性と助産者との相互作用によって成立する<正常>な出産を成立させる社会的環境を考察し、それを通して、現代社会の出産環境を捉え直す。本研究によってデジタル化された収集資料を「日本の産婆・助産婦データベース」(仮)として構築する。それを通じ国内外に向けて女性と助産者と研究者が広く活用できる文化資源として整備し、次世代に継承することをめざす。

CLOSE
大出 春江人間生活文化研究所特別研究員R3~R5
経験的概念としての「ポジショナリティ」の発展的研究

経験的概念としての「ポジショナリティ」の発展的研究

本研究では、帰属集団の相違によって発生する権力関係、意識の齟齬、係争等について、これまで理論的に議論されてきたポジショナリティという概念を用いて分析する。実際に齟齬や係争が発生している事例を調査することにより、経験的な概念としてポジショナリティを再検討し、ポジショナリティに意識的であることが、帰属集団の違いを超えた協働を可能にする条件であることを示したい。そのため、日本と沖縄などの集団関係、ジェンダー、外国人問題、障がい関連の4つの領域で、文献調査、聞き取り調査、アンケート調査を組み合わせた調査を実施する。また日本と韓国でアンケート調査を行い、ポジショナリティに対する意識の国際比較も行う。

CLOSE
池田 緑社会情報学部准教授R3~R6
着衣によるアレルギー症状の誘発機構の解明とかゆみ度の定量化

着衣によるアレルギー症状の誘発機構の解明とかゆみ度の定量化

着衣により皮膚にアレルギー症状を訴える人が年々増加している。我々は、これまでの研究成果により繊維表面の特性と皮膚への刺激がアレルギー症状発症の大きな要因であることが分かっている。本研究は、抗アレルギー効果が認められている合成繊維であるポリ乳酸と弱酸性ポリエステルを素材に用いて衣服を構成する布帛(繊維)の表面構造を変化させた試料布を調製し、3次元表皮皮膚モデルを使用して皮膚の安全性を評価する。また、試料布の水分率、熱伝率、濡れ特性,ゼータ電位などを調べ、被験者を用いた着用実験により皮膚の抗菌効果、皮膚pH、水分率などの結果からアレルギー症状発症の誘起因子を明らかにする。

CLOSE
水谷 千代美家政学部教授R5~R7
項目反応理論の応用による民族服製作技術文化保存のための最適学習過程の探究

項目反応理論の応用による民族服製作技術文化保存のための最適学習過程の探究

消失の危機に直面する東南アジア諸民族の伝統民族服の製作技術を後世に残すことが研究目的である。80民族をカバーする民族服製作技術要素を抽出、数量化し、技術要素の難易度がより低いものから順次高い技術要素へと系統的に技術学習プログラムを項目反応理論を利用して形成し、これを実際の教育現場で検証する。本研究では80民族をクラスター化し、クラスターごとに一般化できる民族服製作技術伝承プログラムを提案する。

CLOSE

下田 敦子人間生活文化研究所准教授R5~R8
視線と身体の引き込みによる自己認知発達過程の再記述:質的および量的な縦断研究

視線と身体の引き込みによる自己認知発達過程の再記述:質的および量的な縦断研究

我々はこれまで乳幼児の自己認識を評価する課題として有名なマークテストを骨格検出と拡張現実(AR)によってクロス・リアリティ(XR)化し、身体表象の評価課題となる側面を見出してきた。本提案では、我々が開発したXRマークテストに視線計測の技術を新たに加え、自己映像、すなわち対象化された自己身体の制御獲得における視線の役割を検討する。さらに、自己像認知に至る前の幼児の、自他像に対する反応や親子遊びの様子を、家庭での動画撮影により縦断的に収集する。自他像に対する身体の使い方の個体内発達を追うことで、自己像認知を視線と身体の引き込みという観点から質的・量的に捉え直す。

CLOSE

宮崎 美智子社会情報学部准教授R5~R9
基盤研究(C)后妃・女院の儀礼と生活様態の変容にみる中世上流住宅の復原的研究

后妃・女院の儀礼と生活様態の変容にみる中世上流住宅の復原的研究

平安時代における打出の舗設について、昨年度に引き続き、文化庁の支援を得て、再現の検討を進め、展覧会を実施した。京都の装束店で、皇后宮寛子春秋歌合(天喜4年(1056) )に参加した春方の女房・信濃の装束の復元を、『栄花物語』『廿巻本類聚歌合』等から色目や文様を検討した。以上の成果を、絵画史料・文献史料・有職故実書等を合わせて、三重県立斎宮歴史博物館で「姫君の空間-王朝の華やぎと輝きの世界へ―」(7月~8月)を実施した。実際に仮設した柱に御簾を垂らし、マネキンに着装した装束を出し、打出を再現した。この過程で、美術史(河田昌之)・国文学(森田直美)・服飾史(伊永陽子)、榎戸由樹・梅澤淳・武田富枝・岸田早苗、民族衣装文化普及協会の協力をいただいた。また、斎宮歴史博物館の古代史の研究者から研究についての多くの知見を得た。
打出に付けられた装飾の史料として、『舞楽図』(毛利博物館蔵、住吉廣行筆)の分析を推進した。主題となる『栄花物語』御賀巻から、宴に参加した倫子・彰子・妍子・威子・嬉子などの着座と打出について分析した。この成果は、日本建築史研究会(5月)、日本建築学会若手奨励特別研究委員会「建築におけるオリジナルの価値」で報告した。
他には、国文学研究資料館が主催している「ないじぇる芸術共創ラボ」で打出について報告する機会を得て(8月)、現代画家や工芸作家、映画監督の方に発表を視聴いただき、打出の空間演出・芸術や女性が担った表象芸術の観点からご教示を得た。その際、『枕草子』に示された建築と装束を通読した。
次年度に向けて、鎌倉時代から南北朝時代の分析を推進するため、刊行された古記録を購入し、資料取集を推進した。

CLOSE
赤澤 真理家政学部准教授H30~R5
(期間再延長)
学童期小児における運動器発達と食事・生活状況との関連

学童期小児における運動器発達と食事・生活状況との関連

区立小学校にて以下の測定・調査項目でインフォームドコンセントを5月に実施した。
踵骨骨密度測定、Inbody による体組成(筋肉分布・体脂肪率)測定、歯科医師による咀嚼力測定、(体力テスト) 、食生活、運動習慣等の生活習慣アンケート調査、体力テストを実施予定であったが、新型コロナウィルス感染拡大により、咀嚼力についてはアンケート調査のみの実施となった。
参加者は小学生5・6年生 74名であり、身体状況の概要(mean±SD)は、身長(cm) 147.9 ± 19.3、体重(kg) 40.9 ± 11.0、体脂肪率(%) 21.2 ± 7.8、骨格筋量(kg) 16.8 ± 4.0、基礎代謝料(kcal) 1058 ± 188、骨密度(OSI) 2.62 ± 0.38 であった。
体力テストと正の相関があった項目は、握力は身長、体重、体脂肪、骨格筋量、基礎代謝量、骨密度、反復横跳びは、身長、骨格筋量、基礎代謝量、骨密度、立ち幅跳びは身長、骨格筋量、基礎代謝量、骨密度、運動頻度、中休みの運動時間、昼休みの運動時間であった。負の相関があった項目は、立ち幅跳びと体脂肪率であった。

CLOSE
上杉 宰世家政学部准教授H30~R5
(期間延長)
中分子量高分子化合物と環境化学物質の複合影響の解析

中分子量高分子化合物と環境化学物質の複合影響の解析

中分子量範囲(分子量:600~2,000)の高分子化合物の存在が環境化学物質の細胞毒性作用に与える影響について検討し、複合影響の予測手法確立のための新たな基盤形成を目指した。これまでの研究では、SH-SY5Y細胞(ヒト神経芽細胞腫由来)及びCaco-2細胞(ヒト結腸癌由来)を用い、様々な高分子化合物と農薬等の化学物質の共存が細胞の増殖・生存に与える影響について検討を行った。その結果、単独では細胞の増殖・生存に抑制効果を有しない濃度のポリエチレンイミン(PEI, 平均分子量: 600、1,200及び1,800)が、殺菌剤等として使用されるチウラムの細胞毒性を相殺することを明確にした。
今年度は、SH-SY5Y細胞を用い、PEI共存下でのパラコート(除草剤)の細胞毒性について再評価を行った。昨年度の検討では、添加後2日間の培養にて影響を評価したところ、共存による明確な効果は認められなかったが、3日間培養においてはPEIがパラコートによる細胞毒性作用を増強することが判明した。この共存による増強効果はチウラムとは逆の複合影響であり、今後その作用機序について解析を進める。
一方で、Caco-2細胞透過性試験を行い、細胞毒性を示さない濃度でのPEI添加の影響を評価したところ、添加後5時間までに顕著な細胞膜抵抗値の低下やLucifer Yellow CHの細胞単層膜底面への移行は見られなかった。本結果から、PEIは、少なくとも細胞毒性を示さない濃度では、細胞間結合のひとつであるタイトジャンクションに作用して細胞接着を緩め、共存する化学物質の体内への吸収を促進する作用は認められないことが示唆された。

CLOSE
四ノ宮 美保社会情報学部教授H30~R5
(期間再々延長)
ジョブコーチの知識及びスキルの明確化と職能評価基準の開発に関する研究

ジョブコーチの知識及びスキルの明確化と職能評価基準の開発に関する研究

2021年度は、2020年度に実施した「ジョブコーチに求められる知識・スキルに関する質問紙調査」で得られたデータをもとに更なる分析を行い、日本職業リハビリテーション学会愛知大会において、3つに分けて口頭発表を行った。発表(1)「訪問型および企業在籍型ジョブコーチの実情」については、普段行っている業務の上位2つは、訪問型では「就労(職業)相談」「対象者のアセスメント」、企業在籍型ジョブコーチでは「人間関係およびコミュニケーションの向上支援」、「対象者の特性や関わり方、仕事の教え方」であった。必要な知識及びスキルのトップは、訪問型・在籍型ともに、「障害特性に応じた支援」であった。また、職場適応援助者助成金を活用していない者が83%と大多数を占めており、助成金要件としての研修よりも専門性習得のための研修の性格が色濃くなっている状況が伺えた。発表(2)「支援者の所属機関による相違」については、就労移行事業群及び障害者就業・生活支援センター群が、企業群と特例子会社群より行う頻度が多い項目が、「就労(職業)相談」等11項目あった。また、必要とされる知識・スキルについては、特に、就労移行支援群が、企業群と特例群より重視する項目が「障害者の管理とエンパワメントに関する知識」等11項目あった。発表(3)「支援対象者の障害種類による相違」では、主に知的障碍者を対象とした支援と、精神障害者を対象とした支援で顕著な差異が見られなかったことは、調査前の仮説と異なっていた。今後の課題として、職場適応援助者助成金を活用して活動している者と、助成金を活用していない者の差異、就労支援の経験年数による差異など、より詳細な内容の分析が必要と考えられた。

CLOSE
小川 浩人間関係学部教授H31~R5
(期間再延長)
独日バイリンガル児の継承日本語での書く力を伸ばす「国語教科書活用法」の開発

独日バイリンガル児の継承日本語での書く力を伸ばす「国語教科書活用法」の開発-

本研究プロジェクトの目的は、在ドイツ日本語補習授業校(以下、補習校)で学ぶ、独日バイリンガル児の継承日本語での書く力を伸ばす指導方法の開発である。独日バイリンガル児が日本語で文章を書く際の強みである、現地校で身につけた文章の作成スキルや知識を日本語へ転移させ、不足しがちな日本語の表現手段を補う指導方法を開発する。
本年度は、①これまで開発してきた指導方法である「国語教科書活用法」を実際に補習校で試行し、より具体的なものにすること、また、②「国語教科書活用法」の基盤となるデータベースにデータを追加することを目指していた。それぞれの成果は以下の通りである。
①「国語教科書活用法」の試行:在ドイツ補習校の小1および小6学級において、担当講師の協力を得て「国語教科書活用法」の試行授業を行い、効果と課題を検討した。その概要は次の通りである。ドイツの現地校の学習で扱った文種を日本の国語教科書から取り上げ、つけさせたい書く力の目標を設定して「逆向き設計」で授業計画を立てた。ドイツの指導方法も参考にして、児童の日本語力に合わせた多様なスキャフォルディングを学習活動や教材に組み入れて授業を行った。これにより、補習校児に不足しがちな、各文種を書くために必要な表現に繰り返し触れさせることができ、書くことが取り組みやすいものになった。また、小6児童の場合、現地校の学習で身につけた文種に関わる意識を活性化すれば、これを日本語に活用させることができた。ただし、学習活動や教材に用いるスキャフォルディングは、補習校児の発達段階や日本語力に合わせて入念に調整することが重要であることも分かった。
②新しい中学校国語教科書の変更点のデータベース化:日本では、新しい学習指導要領の実施に伴い、中学校国語教科書の内容が令和3年度より変更された。そのため、変更点をこれまでに作成した国語科の指導事項のデータベースに追加した。

CLOSE
ビアルケ 千咲人間生活文化研究所研究員H31~R5
(期間延長)
ネパールの村落における社会関与型アートプロジェクトと芸術教育

ネパールの村落における社会関与型アートプロジェクトと芸術教育

新型コロナウィルス感染拡大のために令和3年度の現地調査も実施することができなかったが、継続中のアートプロジェクトの実施と調査資料の収集を現地協力者とのコーディネイトにより進めることができた。そのひとつは、9月にスイスのインターナショナル・スクールと協力して行った栄養価の高いアボカドの苗を植えるプロジェクトである。全校あげてのSDGsプログラムの一環としてムラバリ村における果樹栽培の必要性を伝え、大きなキャンバスにアボカドのイメージを描き、その絵をシンボルにアボカド植樹のための募金活動が生徒主導で行われた。募金によって購入したアボカドの苗は村の斜面にシンボリックな形に植えられ、ひとつのランドアートとして見ることもできる。
村の中で採取できる多様な色彩の土を顔料として土壁の民家の土壁に絵を描くことも試みた。また、村の伝統的金属工芸に携わるカースト集団にアートプロジェクトと関連付けた真鍮製のシンボル製作を依頼し、試作品を完成させることができた。そうしたアートプロジェクト実践の基礎となる子どもたちの生活の中における造形技術の実態調査も行った。木を刃物で削るなど基本的な造形技能を遊び道具を手作りする中で身につけていることが明らかになった。
6月にはスペインのエスプロンセダ芸術文化研究所主催のウェビナーで現代美術と持続可能な村落の発展を結びつけることの意義について解説した。11月には『持続可能な社会の形成と美術教育』を中心テーマにした東京藝術大学美術教育研究会第27回研究大会において大会企画の講演を依頼され、「Art for the Earth 持続可能な世界へ向けてのアートプロジェクト」というテーマで講演した。また、3月には昨年度同様に国立新美術館で開催されたアンデパンダン展においてムラバリ村のウコンを用いて染色した木綿布を素材にしたインスタレーションの展示を行った。

CLOSE
金田 卓也家政学部教授R2~R5
(期間延長)
保育者の成長プロセスに応じた専門性向上の機会のあり方に関する研究

保育者の成長プロセスに応じた専門性向上の機会のあり方に関する研究

本研究は、保育者の専門性開発(発達)の段階、およびそれを区分けする要因を詳しく特定すると共に、保育者に学びの機会を具体的に明らかにし、園組織で実践可能な具体的な手立てを明らかにすることを目指した研究である。
本研究テーマをめぐる状況は、近年大きく変化しており、それと共に本研究を通じて追及していく研究課題も変化しつつ、一方でその変化の中で変わらず焦点となっている話題もある。研究の調査対象となっている園の状況を中心に、こうした動向をトレースしていくことにより、本研究の核心となるような論点を見出すことにもつながっている。
具体的には、園における保育者の育成や成長、あるいは研修のあり方などの変化である。感染症の影響により外部に出る機会が少なくなったことを受け、園外で研修を受ける対象者やそのねらい、意義などが見直されている。一方で、遠隔で受けられる研修が増えたことにより、園外の様々な話に触れる機会が多くなったということもあった。さらには、園内の活動についても見直しが行われているなど、保育者の学びの機会のあり方が大きく変化していることが明らかになってきている。
これをうけて新たに生じたテーマは、こうした機会をどのように活用し、また保育実践につなげいくかという点である。現在も取材を継続しているところであるが、この点は園によって対応が様々であり、差がみられてきている。このことは、園が保育者の専門性の発達に対してどのように考え、どのように機会を設けているかということが、この機に表面化しつつあることを示しているとも見ることができる。研究計画の段階で想定していた視座では必ずしもないものの、今後の研究では、この点についてより詳細に追究していくことで、本研究の核心である専門性発達の要因や機会のあり方に近づけるのではないかと期待している。

CLOSE
坂田 哲人家政学部准教授R2~R5
(期間延長)
身近な食と連携した新たな体験型の海洋教育「海育(うみいく)」の提案

身近な食と連携した新たな体験型の海洋教育「海育(うみいく)」の提案

本研究では、生活体験の中の重要な要素の一つである「食」と関係づけ、地域と連携した体験型の海洋教育実践例を提案することを目的としている。具体的には、これまでに活動実績を重ねてきている能登半島の穴水町をフィールドとし、小学生を対象に、地元特産の魚介類を題材とした「うみいくカード」を作成する取り組みを拡充しつつ実施する。さらに、取り組みの成果を検証することを目指し、子どもたちにアンケート調査を実施する。
2021年度は、前年度(2020年度)同様にコロナウイルス感染症の影響が続き、2年続けて現地に出向くことはできなかった。
しかし、コロナウイルス感染症の拡大前から継続的に連携してきている地元の小学校や教育委員会などの協力を得て、うみいくカード作成の取り組みは実施することができた。当該小学校の3年生がふるさと教育で行う地元の牡蠣養殖現場での体験学習を題材とし、養殖や加工について学んだことを、子どもたちが各々自由に絵や文章として表現した。できあがった絵や文章を受け取り、子ども一人分の絵と文章が1枚のカードになるように編集してうみいくカードを作成した。完成したうみいくカードは、2020年度に作成済みのケースに全員分(2021年度は7名分)をセットにして入れ、担任の先生から子どもたちに手渡してもらった。また、取り組みの効果を検証するための指標として実施してきている海洋リテラシーとセルフエフィカシーに関するアンケート調査についても、小学校との郵送でのやりとりを介して実施することができた。
現時点での取り組みの状況及びアンケート調査の検討結果などについては、複数の学会で発表した。

CLOSE
細谷 夏実社会情報学部教授R2~R5
(期間延長)
戸建住宅市街地の住宅更新における世代間継承と住宅・住環境の管理に関する研究

戸建住宅市街地の住宅更新における世代間継承と住宅・住環境の管理に関する研究

住宅市街地では、近年、家族による住宅継承が行われず、住宅更新の遅れや空き家・空き室化が顕著となっている。そのため、これまでの市街地更新とは異なる更新過程を明らかにしていく必要がある。本研究では、これらの更新過程を明らかとし、その結果として出現する住環境の実態とその問題について考察するものである。家族による住宅更新・住宅継承の促進および市街地環境面を考慮した市街地整備や建築行為のコントロールのあり方を示すことを目的としている。
そこで、新たな更新過程の一つとして賃貸併用住宅に着目した更新活動の実態および居住する家族の意向を把握し、その今後の動向を整理することを試みた。とりわけ、空き家の増加について、その経緯を把握するため、事例調査を行った。世田谷区および狛江市空き家等対策協議会における空き家事例に関する協議会資料の整理を行った。
対象とする住宅市街地における空き家化では、住宅更新のおくれには家族による居住継承や住宅継承の難しさが存在することが確かめられた。親子世帯が別居する傾向が強まるとともに、親世帯の長寿化によって、別居した子世帯との同居が行われることは少なくなり、親世帯の居住する住宅の更新がおくれ、空き家化する要因であることが分かった。従来、住宅資産として価値の高い住宅市街地の場合、居住継承・住宅更新が行われる可能性が高いと考えられていたが、近年では相続にともない更地化して売却されることが多くなり、市街地環境に変化を生ずることが確認された。

CLOSE
松本 暢子社会情報学部教授R2~R5
(期間延長)
地域活性化に資する効果的な農福連携プログラムモデルの構築に関する研究

地域活性化に資する効果的な農福連携プログラムモデルの構築に関する研究

昨年度、各地域の農福連携の取り組みをまとめ、暫定版のプログラムモデルを作成した。
暫定版プログラムモデルでは、インパクト理論として障害者就労継続支援事業所が農福連携に取り組む際の成果の流れについて、これまでの先行研究からまとめた。その結果、就労継続支援事業が農福連携に取り組む場合、地域の農業の活性化から障害者も地域住民も地域での生活を楽しめるようになることを目標としていることが明らかになった。
また、暫定版プログラムモデルでは、農家、障害者、製品の変化の過程をたどることで上記目標が達成される可能性があることが明らかになった。また、これらの変化を促すための具体的な活動については、農家への働きかけ、障害者への働きかけ、販売及び品質向上への働きかけとして、明らかになった。
特に、就労継続支援事業で取り組む際には、販売及び品質の向上への働きかけがネックになっており、多様な障害を持つ利用者と一定の品質を保つ商品をどのように市場へ出していくのかという点で、ここへの取り組みが重要であることが示唆された。
施設内、施設外含めてどのような連携をとりつつ農福連携に取り組んでいくのかということを組織計画(支援体制の図)としてまとめた。組織計画では、就労継続支援事業所が、農業を実践する際の窓口や取りまとめ、連携先などを明らかにした。その結果、窓口や取りまとめを行う機能をもつ施設があることで、就労継続支援事業において農業による収益が可能となる事業を行うことができる可能性があることが示唆された。その窓口や取りまとめについての機能は、地域によって様々な主体が担っており、窓口業務だけではなく、農福連携における相談・支援や農家への働きかけなどを行っていることも明らかになった。

CLOSE
藤本 優人間関係学部助教R2~R5
(期間延長)
現代台湾文学・映画におけるLGBT文化の影響―ジェンダー表象に注目して

現代台湾文学・映画におけるLGBT文化の影響―ジェンダー表象に注目して

コロナによる台湾への入国規制により渡航できず、国内で可能な研究活動を行った。研究代表の赤松美和子は、日本台湾学会第23回学術大会(オンライン、2021年5月30日)で、分科会「予定調和のためのジェンダー・ポリティクス―1950年代のラジオ放送および近年のLGBTQ映画日本」を企画し、赤松が「台湾LGBTQ映画における子どもをめぐるポリティクス」、分担者である張文菁が「1950年代台湾語ラジオ放送にみる語りと歌謡曲の融合--洪徳成『美麗的情仇』と『愛的聖典』」を報告した。9月に、オンラインシンポジウム「LGBTQ映画と社会-日本の研究と台湾への接近の可能性」を主催し、クィア・スタディーズ、アメリカ映画を専門とする菅野優香、クィア・スタディーズ、日本映画を専門とする久保豊を講演者に迎えた。『台湾を知るための72章』( 明石書店 2022年3月)を若松大祐と共編で刊行し、文学、映画について概説した。
研究分担者の垂水千恵は、論文「台湾映画礼賛(特集台湾映画)」を刊行したほか、 福岡ユネスコ文化講演会で招待講演「「台湾」を読む―台湾新文学からLGBTQ文学まで」を行った。張は、単著『通俗小説からみる文学史 : 一九五〇年代台湾の反共と恋愛』、論文「1950年代初期の禁書政策と中国語通俗出版」を公刊し、3月に台湾の国立清華大学台湾研究所で講演「従通俗小説看台湾文学史」を行った。
協力研究者白水紀子は、論文「台湾LGBT文学の現在――「新しいホモノーマティビティ」への対抗」を発表するとともに、台湾LGBTQ文学の短編作品集である江鵝ほか著、『台湾文学ブックカフェ1 女性作家集 蝶のしるし』を完訳した。協力研究者八木はるなは、国立台湾文学館刊行の『文学青年育成ガイド: 台湾文学史基本教材』を共訳した。
2022年度、可能なら現地調査を行うとともに、引き続き研究成果の発信に尽力したい。

CLOSE
赤松 美和子比較文化学部教授R2~R5
(期間延長)
中国「元代」茶詩の全収集と解析研究

中国「元代」茶詩の全収集と解析研究

本研究は元代の茶詩を網羅的に収集し、元代茶詩全集をまとめた上で、茶詩の解析により、元代茶文化の全貌を解明することを目的とする。上記目的達成のため、本研究は下記の二段階で実施していく。
(一)元代茶詩の網羅的収集。元代茶の全貌を描くために、網羅的な収集に拘る必要がある。茶詩の網羅的収集は「元代茶文化研究史料がない」という空白を埋めることになるだろう。
(二)現代喫茶実態の現地調査で文献史料の解読と解析。一時代の喫茶文化を究明するのに、茶文化研究者はその時代の古典文献資料のみを重視する傾向が頗る強い。その欠点として古典の解読において直感性を欠き、疑問や謎を残すことが多く、難解の部分があれば手を付けずじまいになる場合も多い。一方、各地域各民族の喫茶は伝承性があり、古代様態のまま継承されてきた場合も多いものの、本格的な調査、研究がされていない。本研究申請者は茶文化の伝承性に着目し、現地調査で得た現代喫茶実態を以て文献史料の難解部分を解析し、史料の不足を補い、さらに史料通りに現代の道具で再現実験を実施し、「復元」という目に見える形で元代喫茶様態を解明していく。
2021年度は研究実施の二年目であり、予定通り上記(一)元代茶詩の収集作業を終え、3003首の元代茶詩を収集した。その上、この3003首茶詩をデータ化し、作者伝記、出典、目次索引を付けて、『中国元代茶詩全集』という本を編集した。さらに、出版に向けて、三回の校訂作業を終え、2022年前半に出版する運びになった。『中国元代茶詩全集』はそのタイトルのとおり、中国元代茶研究「全集類」の資料として目下唯一のものである。
また、上記(二)の茶詩史料の解読と解析作業もスムーズに進んでいる。これらの研究結果を『中国元代茶詩選注』という本にまとめ、2023年度に出版する予定である。

CLOSE
徳泉 方庵国際センター教授R2~R5
(期間延長)
学校における児童生徒の突然死の実態解明と発生予防に向けた疫学研究

学校における児童生徒の突然死の実態解明と発生予防に向けた疫学研究

本研究は、独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済給付のデータと総務省消防庁の全国救急蘇生統計とを結合し、我が国の学校管理下で起こる院外心停止の発生状況から予後までの全体像が把握できるデータベースを構築し、分析を行うものである。
2021年度は、災害共済給付データから2018年度および2019年度分の院外心停止情報を取得した。これを総務省消防庁の全国救急蘇生統計と結合し、これまでに作成したデータベースに追加した。
本データベースを用いて、学校で発生した児童生徒の院外心停止に対して市民救助者が実施した心肺蘇生の種類(胸骨圧迫のみの心肺蘇生[chest compression-only cardiopulmonary resuscitation: CCCPR]または人工呼吸付きの心肺蘇生[conventional cardiopulmonary resuscitation with rescue breathing: CCRB])が近年どのように変化しているのかを明らかにした。また、心肺蘇生の種類によって生命予後に差があるかどうかを検討した。2008年4月~2017年12月に学校で発生した児童生徒の非外傷性心停止287例のうち、市民救助者による心肺蘇生を受けた253例を分析した(CCCPR群:94例、CCRB群:159例)。CCCPRを受けた症例の割合は、2008-2009年は25.0%、2016-2017年は55.3%であり、年々増加傾向にあった(P for trend <0.001)。社会復帰に至ったのは、CCCPR群の53.2%(50/94)、CCRB群の46.5%(74/159)であり、多変量解析の結果、両群に有意な差はみられなかった(調整済みオッズ比:1.23、95%信頼区間:0.67-2.28)。

CLOSE
清原 康介家政学部准教授R2~R5
都市の公共空間の利用のための風速と体感の関係と風に関するソーシャルマップの試作

都市の公共空間の利用のための風速と体感の関係と風に関するソーシャルマップの試作

都市の公共空間の利用と都市の再開発計画のための風速と体感に関する基礎データを整備するとともに、都市の公共空間の利活用への展開を目標とした風に関するソーシャルマップを試作することが本研究の目的である。
昨年度同様に新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、計画通りに調査を実施することはできなかったものの、風速と体感、目撃した事象や風の強弱の評価、衣服・髪の乱れへの影響などに関するデータを収集した。
昨年度と今年度の調査結果に準備段階から実施してきたこれまでの調査結果を加え、測定時に目撃した事象や体感の自由記述について、頻出語、語と語の関連性を分析した。その結果、風に関する自由記述の内容が大きく①風の強弱、②木や枝、旗などへの影響、③天候、気温、④人や自転車、⑤温冷感、⑥場所や建物、についての6つに分けられることがわかった。また平均風速、最大瞬間風速と自由記述から抽出された語との関係性について分析し、風速が強くなるにつれて自由記述で使用される語も変化していることを確認した。さらにこれまで得られているデータを用い、風速と風に関する強弱評価、風の髪・服装へ影響についても、平均風速と最大瞬間風速との関係を整理した。その結果、風速と風の強弱に関する主観評価には強い相関があることを確認した。また髪への影響に比べ、服装への影響は小さい傾向にあること、平均風速で整理した場合も最大瞬間風速で整理した場合も風速の値は違うものの概ね同様に評価割合が変化していたことを確認した。

CLOSE
白澤 多一社会情報学部教授R2~R5
分散型電源によるマイクログリッド構築のための社会的相互作用とビジネスモデルの研究

分散型電源によるマイクログリッド構築のための社会的相互作用とビジネスモデルの研究

近年、地球温暖化対策や電力供給の安定化のために、再生可能エネルギーなどの分散型電源の普及と活用が重要課題となっている。本研究では、分散型電源を効率的に普及させ、災害に強い電力インフラの整備を実現するビジネスモデルとは何かを解明する。そのため、分散型電源の導入と運用管理に影響する社会的相互作用や社会経済要因を特定し、分散型電源の普及に最適なビジネスモデルの立案と効果の実証実験を行うことを予定している。
令和3年度は、自動車税制が自動車市場に与える影響を分析した研究が国際学術誌Economics of transportationに掲載されることが決定した。具体的には、Berry et al. (1995)のランダム係数ロジットモデルにより自動車の需要構造を分析し、燃料税の増税は平均燃費を改善するが、車体課税の増税はより大きな自動車への需要のシフトをもたらし、平均燃費を悪化させる効果を持つことを明らかにした。また、電気自動車の普及に必要な補助金額の推計も行った。
太陽光発電の普及策に関する研究では、市町村レベルでの普及に関するデータの構築を行った。具体的には、再生可能エネルギーの固定価格買取制度における導入や認定のデータ、地域属性に関するデータ、太陽光発電システムの導入や運用に係わる費用に関するデータなどを収集した。また、多項ロジットモデルにより太陽光発電システムの需要構造の分析を開始した。研究成果については、令和4年度に学会での報告を計画している。

CLOSE
桑島 由芙社会情報学部准教授R2~R5
拡張した節構文の意味及び構文的知識の言語理解過程に果たす役割に関する研究

拡張した節構文の意味及び構文的知識の言語理解過程に果たす役割に関する研究

本研究は、実際に使用される容認性の低い文の意味を、母語話者がどのように意味理解するかについて、母語話者の「構文」に関する文法的知識の観点から明らかにしようとするものである。特に節を含む種々の構文を実例観察することにより、柔軟な文の意味理解の過程と文法的知識との関係を明らかにしようとしている。
本年度は、これまで個別に考察されてきた「ノガ節」を含む構文群(「太郎がピアノを弾くのが見える」などの明確な格を構成するノガ動詞述語文・「重大な傷を見過ごしたのが事故の原因だ」などの前項焦点のノガ名詞述語文・「中でも特にお勧めなのがこれだ」などの後項焦点のノガ名詞述語文・「応募者数が10年前は100人だったのが今は5人になった」などのサマ主格変遷構文)を包括的に考察することに着手した。これまでの研究の成果から、仮説として、多様な「ノ節」構文における「ノ」には、共通する意味があること、それは、発話者の想定にある概念を指示する〈既定性〉であることを見込んだ。その検証として、「大多数が工学科生だ」のような「ノ節」を持たない文と「大多数なのが工学科生だ」のような「ノ節」を持つ文の意味的差異を分析し、「構文の意味の研究―現象の包括的考察と言語理論の構築へ向けて―」(『国語と国文学』99:5)にまとめた。
また、逸脱的特徴を持つ文を考察・分析する方法論を整理し、内省判断および実例観察が重要であり、この二つの手法は相互に補い合うものであること、それらの補足として多数者に対する言語意識調査が有用であることを「現代日本語文法研究の二つのアプローチに関する考察」(『大妻国文』53)にまとめた。

CLOSE
天野 みどり文学部教授R2~R6
小学校教員のための「教科としての英語」指導研修プログラム開発

小学校教員のための「教科としての英語」指導研修プログラム開発

2020年度から実施されている新学習指導要領では小学校5・6年生に「教科としての英語」指導が求められ、児童に英語の4技能の力を身につけさせる必要がある。多くの小学校教員は英語力不足・指導力不足に直面していると同時に、早期英語教育指導者に必要な第二言語習得に関する知識も不足している。
本研究の目的は、小学校教員が効果的に「教科としての英語」の指導を、第二言語習得理論に基づき実施できるための、継続的に実施可能な研修プログラムの開発をすることである。研修では「教科としての英語」を担当する小学校教員が抱える授業実施にかかわる「不安要因」を特定し、「不安要因」を解消しながら英語の授業を実施するための英語力と指導力を身につけることが大切だ。しかし、研修はそれだけでは不十分である。
これからは小学校教員が早期英語教育を効果的に行うために必要な第二言語習得に関する基本的な専門知識を身につけていることが求められる。小学校に英語教育が導入された理論的根拠となっているのが臨界期仮説である。第二言語環境とは異なる日本のような外国語環境での、教育実践者にとって必要な臨界期に関する知識を整理する必要がある。また第二言語習得では学習者要因が重要な役割を果たしている。外国語環境で学習する日本では、内的要因がとても重要である。本研究では、第二言語習得理論の視点を踏まえた小学校教員に必要とされる知識を取り扱う英語教育学の本質を捉えた研修プログラムの開発を行った。

CLOSE
服部 孝彦英語教育研究所教授R3~R5
ミャンマー連邦共和国基礎教育学校における平等性と卓越性に関する実証研究

ミャンマー連邦共和国基礎教育学校における平等性と卓越性に関する実証研究

令和3年度は、ミャンマーの基礎教育学校における、学力の大きな要因である基本的な学習環境の地域間格差の分析に加え、平等性と卓越性の指標となる学力に関して、以下の2つの詳細な研究を行った。
1.基礎教育学校の教授言語は一般に標準言語であるミャンマー語が用いられるが、教授言語が家庭語でない子どもにとっては授業内容の理解の問題が生じると考えられる。2019年にミャンマー国を含むASEAN6カ国で小学校5年生を対象に算数、読解力、書き方の標準学力調査が実施された。調査データには児童の学力のみならず、それに影響を与えると考えられる諸要因も含まれている。分析結果として、学力を説明する政策的な要因として最も重要なのは教授言語であるミャンマー語と児童が家庭で用いる言語の一致である。家庭の言語がミャンマー語でない場合、特に書き方の学力で明確に低いが、算数でも差が見られる。言語の問題は特に学力の低い層で深刻であり、家庭言語を理解できる補助教員や補助教材の活用が必要である。
2.教育省はミャンマー語を家庭語としない少数民族の学力向上のため、TA(テーチングアシスタント)と呼ばれる言語補助教員を臨時採用教員として、全国の必要な学校に配置し始めた。TAは特定の教科は担当しないが、各種の言語的学習支援を行っている。このTA配置政策が果たして効果があるかどうかを検証するために、2018年度のデータを用いて学力と学年間推移率を2018年度のTAの数を含む様々な要因に回帰することにより、児童総数に対するTAの数が小学校課程5年生の年度末試験結果を有意に説明出来る事を示した。さらに、TAの数が相対的に多いほど、小学校課程の学年間推移率も高い事を明らかにし、TA配置政策の効果が高い事を示した。

CLOSE
牟田 博光人間生活文化研究所特別研究員R3~R5
オンライン実験で活用できる教育用IoT機器の作製とその波及効果について

オンライン実験で活用できる教育用IoT機器の作製とその波及効果について

すでに温度、湿度、気圧、酸素濃度、二酸化炭素濃度、照度計の6種類のセンサを搭載した教育用のキットは出来上がっている。実験内容によって必要なセンサを接続することで、簡単に計測できる。令和3年度では、誰でも簡単に計測できるように、目視によってデータを確認するレベルシステムである。今後は、世界的な半導体不足をどのように対処するかにかかっている。さらにネットによるメリットとデメリットのバランスと考慮しながら、実験を積み重ねて行くことが、涵養ではないかと考えている。

CLOSE
高橋 三男家政学部教授R3~R5
環境DNAを用いた魚類多種同時遺伝的多型分析法の開発と淡水魚類メタ群集研究の実践

環境DNAを用いた魚類多種同時遺伝的多型分析法の開発と淡水魚類メタ群集研究の実践

本研究の目的は、魚類における環境DNAメタバーコーディング法として広く用いられているMiFish法を基盤とした魚類遺伝的多様性評価手法を開発することであり、そのために、(1)DNA配列増幅(PCR)条件の最適化および(2)増幅された変異配列のエラーを取り除くデノイジング手法の検討をおこなう。
本年度は、(1)について、現状利用可能なPCR試薬の中からPCRエラーが少なく、かつPCR阻害への耐性が高いものを選定する基礎実験を行い、その選定を終えた。また、この実験においてPCRの温度サイクル数がPCRエラーを含むリードの生成に及ぼす影響を検討し、基盤となるデータを得た。さらに、以前から知られていたMiFishプライマーで増幅されにくい種について、MiFishプライマーの部分改変プライマーを合成して同時に増幅に使用するという検討を行い、大幅な検出感度の向上を確認した。MiFish領域を遺伝的多様性の評価のために利用するには前提として、多くの種がしっかりPCR増幅されることが重要である。当該領域を対象とする場合には、このようなマルチプレックス用プライマーをこまめに設計して利用することで、より包括的な評価が可能になることが示唆された。
(2)に関しては、PCRによるDNA配列の増幅過程を説明する数理モデルを精査し、増幅産物中の真の配列とそれを鋳型として生成されるエラー配列を統計的に判別する手法を開発した。また、開発した手法を統計解析向けプログラミング言語Rにおいて実行するための解析パイプラインを構築し、公共データベースにアーカイブされている複数のメタバーコーディングデータを用いた手法の性能評価および既存手法との比較をおこない、本手法の有効性および既存手法と異なる特性を明らかにした。

CLOSE
小関 右介家政学部准教授R3~R6
旧英領カリブの多文化共生を実現する少数派としての白人性とその構築過程の解明

旧英領カリブの多文化共生を実現する少数派としての白人性とその構築過程の解明

研究初年度の2021年は、当初の研究計画、すなわち旧英領カリブ地域のトリニダードとバルバドスにおける白人性構築に影響を与えている要素を明らかにすること、を中心に研究を進めた。白人性とは時と場所により異なる意味を持つ流動的な概念であり、多くの場合、非白人に対する根拠のない差異と優越性の信仰、社会的・経済的特権を含意する白人の意識を指す。研究初年度に計画していたトリニダードとバルバドスにおけるヨーロッパ系市民を対象とした現地聞き取り調査は新型コロナウィルス感染拡大のため、現地渡航が叶わず、次年度以降に実施延期とした。現地で収集予定であった一次資料を研究協力者に収集依頼し、新たに貴重な資料を入手することができた。その文献調査に基づき、先行研究時に入手した「語り」の再分析を行ったところ、主な研究成果は以下のとおりである。
かつて英国植民地トリニダードにおいてヨーロッパ系白人エリートたちの邸宅であったグレートハウスは、現代21世紀社会においては奴隷制度の副産物とみなされている。なぜならグレートハウスはヨーロッパ系白人エリートがアフリカ人奴隷などの非白人の労働力を搾取し続けたことによって築いた巨富を元手に建設したものと認識されているからである。そのようなグレートハウスの代表格であるマグニフィセント・セブンとカントリー・クラブを事例に挙げ、現代のヨーロッパ系白人トリニダード人にとって、それらのグレートハウスがどのような意味を持つのかを探った。マグニフィセント・セブンは大した意味を持たない一方、カントリー・クラブは白人としての意識の核心としての役割を担っていることが明らかになった。
バルバドスのヨーロッパ系白人に関しても、ヨット・クラブや、あるゴルフコースの会員であることがヨーロッパ系白人社会に属す、また社会階層の上部に属す認識を強めるようである。詳細の分析は次年度以降の課題としたい。

CLOSE
伊藤 みちる国際センター准教授R3~R6
読解を経由する記述力向上プログラムの実証的研究

読解を経由する記述力向上プログラムの実証的研究

本研究は、文章を正確に読み解き、目的や所与の条件等に応じて的確に記述する、「読解を経由する記述力」の向上を図ることを実証化して示すものである。
記述力の向上は、国内外の学力調査や学力に関わる試験がコンピュータを使った試験方式(CBT)へ移行していく時勢においても重要な価値がある。
我が国のPISA 調査におけるCBT 対応の遅れが指摘される中、その基盤となる読解を経由する記述力の向上は喫緊の課題である。
本研究は、小学校段階における記述力向上プログラムの開発を図り、それを全国の小学校で試行し実証することにより、成果を波及させていくことを意図している。

CLOSE
樺山 敏郎家政学部教授R4~R6
『竹取物語』を中心とした9世紀文学圏における仏教受容の研究

『竹取物語』を中心とした9世紀文学圏における仏教受容の研究

物語文学の誕生について明らかにするためには、現存最古の物語である『竹取物語』の典拠の徹底的な調査が必要となる。特に、『竹取物語』成立のための必須の教養であった仏教の受容に関する研究は不可欠といえる。
本研究は、『竹取物語』を中心に、同時代テクストにおける仏教の受容について調査するものである。物語文学が創造された9世紀において、その作者層がどのような仏教的教養を身につけ、それをどのように創作に活かしていたのかを明らかにし、物語文学誕生の背景に光を当てたい。

CLOSE
久保 堅一文学部教授R4~R6
最新科学データを用いた立体天文教材の開発

最新科学データを用いた立体天文教材の開発

学校教育では、天文学の最先端の科学成果についてほとんど触れられていない。最新の研究成果を基に、児童・生徒に宇宙の中の我々の位置を理解させることができれば、人類と地球の持続可能性を宇宙的視点から考えさせることも可能である。本研究では、教員志望の学生を対象に、最新の天文学データに基づく教材を作成する。

CLOSE
下井倉 ともみ社会情報学部准教授R4~R6
バーチャルリアリティ体験の事後効果を活用したパフォーマンス発揮に関する研究

バーチャルリアリティ体験の事後効果を活用したパフォーマンス発揮に関する研究

人はVR体験中に行動や思考が変化する影響を受ける.ユーザがその影響を活用してVR体験後の行動(デスクワークなど)に対するパフォーマンス(作業速度など)を適切に発揮できるのではないかと考えた.本研究の目的は,VR環境での体験から受ける影響を活用し,ユーザが体験後の行動におけるパフォーマンスを適切に発揮できるようにすることである.パフォーマンス発揮の促進刺激として,モニタ視聴・VR視聴・VR体験などの刺激を提示し,その後のパフォーマンスへの影響の違いを明らかにする.

CLOSE
磯山 直也社会情報学部専任講師R4~R6
ギリシア神話に回収されるキリシタン:近世擬古典ラテン語文学における日本の受容

ギリシア神話に回収されるキリシタン:近世擬古典ラテン語文学における日本の受容

近世ラテン語文献は大量の学界未見史料が世界各地に散在しているが、本研究はその内、日本情報をギリシア・ローマ神話と融合させ受容している諸作品を扱う。具体的には1628年スペインで刊行された金羊毛伝説とザビエルおよび日本人殉教者達を重ねた書籍1点と、ほか17~18世紀中東欧で作成されたギリシア・ローマ神話の神々が登場する英雄叙事詩や古典劇の形式で日本宣教史を語った2点のラテン語作品を調査し、内容、日本情報の同定や伝達の経緯、成立の文脈を明らかにする。

CLOSE
渡邉 顕彦比較文化学部教授R4~R6
化学と環境・歴史・倫理の融合を目指した教育コンテンツの開発と実践

化学と環境・歴史・倫理の融合を目指した教育コンテンツの開発と実践

環境を含む科学技術政策等の意思決定に参加する市民には、地球環境に配慮し且つ過去の化学兵器の利用等による化学の負の側面への理解を深めた人間性と高い倫理観が求められる。一方で、急激に変化する社会情勢に対応できる市民の育成手法として、文理が融合した統合的な思考力を修得するための教育が重要視されている。本研究では、化学を軸に環境、歴史、倫理、法律などへのつながりを示した大学教養科目レベルの教育コンテンツを開発し、授業や市民公開セミナーなどにて実践使用する。また、探究型授業を行う上での研究倫理に関する教育コンテンツを開発し、これらの普及・浸透に向けての活動を行う。

CLOSE
四ノ宮 美保社会情報学部教授R4~R7
近代日本における洋式製本の移入と定着

近代日本における洋式製本の移入と定着

本研究は、日本に洋装本が登場してから定着するまでの19世紀後半から20世紀初頭までを範囲として、書物製作の技術と書物に対する意識の変遷を関連付けつつ、近代日本の洋式製本移入史を構築することを目的とする。具体的には、①解体調査を含めた書物の実物調査によって、洋式製本移入期の技術的な実態と日本における技術的展開の過程を明らかにする。②製本語彙の語彙史的調査および書店の目録や出版広告の調査を行うことによって、洋式製本移入に伴う職人・書肆・読者における書物の用法や書物観の変容を明らかにする。③官民の初期洋装本刊行の出版史的な調査を①と接続することによって、洋式製本の移入と展開を歴史的に跡づける。

CLOSE
木戸 雄一文学部教授R5~R7
仮名本『曽我物語』後期本文の劇文学としての萌芽

仮名本『曽我物語』後期本文の劇文学としての萌芽

『曽我物語』の作品世界は、非常に伝承性が強く、真名本、訓読本、仮名本それぞれに、本文が整えられていった時代や地域特有の伝承世界を投影している。そして本作品が後代の作品、文化に与えた影響は大きく、様々な領域へ広がりを見せる作品である。特に、仮名本『曽我物語』出現の背景には、歴史の「物語化」と「大衆化」があると考えている。そこには、物語の劇化が進んでいくために普遍的な展開があると考えられる。人々が物語に求めるものはなにか、そして物語本文はどのようにそれに応えていったのか、という点を明らかにしようとするものである。

CLOSE
小井土 守敏文学部教授R5~R7
民生委員の活動意欲向上および負担感緩衝に向けたネットワーク構築プログラムの検討

民生委員の活動意欲向上および負担感緩衝に向けたネットワーク構築プログラムの検討

本研究では、地域福祉の重要な担い手である民生委員への質的研究をもとに、民生委員活動における社会的ネットワークの形成プロセスを明らかにする。また、質的研究および先行している量的研究の結果をもとに、民生委員のネットワーク拡充のための支援策を検討し、民生委員や関係する専門職を対象に実施、効果評価する。本研究により、民生委員活動における意欲向上・負担感緩衝に効果的な民生委員の社会的ネットワークの様態と、その形成・拡充に向けたプログラムの効果を示す。

CLOSE
飛田 和樹人間関係学部専任講師R5~R7
日本人の共生意識に基づいた子育て・子育ちのための共生型集住に関する研究

日本人の共生意識に基づいた子育て・子育ちのための共生型集住に関する研究

本研究は居住者のニーズに合わせて柔軟に協力関係をつくる共生型集住(コウハウジング)を研究対象として、日本および海外の先進事例の実態を日常の生活行為の共同性と集住形態の対応関係から分析し、日本人の子育て世代の共生意識に基づく、子育て・子育ちのためのゆるやかな共生型集住の複数パタンを提案する。

CLOSE
大橋 寿美子社会情報学部教授R5~R7
モバイル顕微鏡を用いた新たな海洋教育実践例の提案

モバイル顕微鏡を用いた新たな海洋教育実践例の提案

本研究では、初等教育において、学校内の授業で取り入れることができ、かつ子どもたちが主体的かつ体験的に取り組むことのできる新たな海洋教育実践例を構築し、海洋教育の裾野を広げていくことを目的とする。
具体的には、入手しやすい海産物を教材とし、タブレットに装着して使用するモバイル顕微鏡を活用した授業の実践例を構築する。さらに授業の前後で子どもたちの海洋リテラシー(海に関する知識や理解)などを問うアンケート調査を行い、授業実践の効果について検証しながら、内容の改善を図る。
以上のような取り組みを通じて、海洋教育の裾野拡大に有効な実践例の構築を目指す。

CLOSE

細谷 夏実社会情報学部教授R5~R7
「お家で観察」を「皆一緒に」で充実させる!オンライン星空観察会を伴う天体学習新案

「お家で観察」を「皆一緒に」で充実させる!オンライン星空観察会を伴う天体学習新案

初等中等教育の現場は、子ども一人に一台端末の整備が完了し、タブレット端末を持ち帰り家庭で学習する効果についても期待されている。そこで本研究では、夜間自宅での観察が求められる「星の動き(4年)」の単元で、タブレット端末を用いた新しい星空観察の方法を構築する。
子どもは「自分たちの学校にある星座カメラi-CAN」の星空を自宅で「共有」し、これまで星空観察時に子どもが感じていた「孤独感」に対し、なかまと一緒に観察する「協働的」な学習方法を提案する。さらに、新i-CAN設置校と協力の得られた学校の交流を図り、天候に左右される星空観察について、新しい学習方法を開発する。

CLOSE
木村 かおる家政学部准教授R5~R7
再生可能エネルギーとモビリティの効率的接続に関する制度設計の経済学的研究

再生可能エネルギーとモビリティの効率的接続に関する制度設計の経済学的研究

本研究では、エネルギー消費効率の改善や環境負荷の低減を目的として、太陽光発電と蓄電池、電気自動車を統合したシステムの普及を促進する税制や料金体系、規制とは何かを解明する。その際、消費者が現在と将来の費用をどのように評価するのかに着目し、導入段階の補助金と運用段階の税制のどちらが普及に効果的なのかを実証的に分析する。そして、長期的な視点に立った普及政策の効果を反実仮想シミュレーションにより検証する。

CLOSE
荒川 潔社会情報学部教授R5~R8
台湾表象としての「白色テロ」―2017年移行期正義促進条例を画期として

台湾表象としての「白色テロ」―2017年移行期正義促進条例を画期として

台湾では、白色テロ期(1947-87年)に、言論の自由が厳しく制限され、政治犯とされた多くの人々が投獄、処刑された。白色テロは、80-90年代にかけて文学や映画に描かれ、負の歴史として記憶化されてきた。だが2017年の移行期正義促進条例公布以降、エンターテイメントの素材となり、重要な台湾文化表象だとみなされていく。
白色テロのような「負」の歴史を、「正」なる台湾文化表象へと変換していくことの社会的意義、文化的意義とその手法、およびポリティクスを論理的に解明し、白色テロの再記憶化への影響を、世代間比較も含め、体系的に整理する。東アジアにおける近現代史への向き合い方を考えるうえでの参照例としたい。

CLOSE
赤松 美和子比較文化学部教授R5~R8
冷戦期、太平洋地域におけるアメリカ軍事・民間航空政策に関する研究

冷戦期、太平洋地域におけるアメリカ軍事・民間航空政策に関する研究

本研究は、1945年から1974年の「フライ・アメリカ法」成立までの太平洋地域おけるアメリカ航空政策を考察することを目的としている。「フライ・アメリカ法」とは、アメリカ政府関連で海外に渡航する場合に、アメリカ合衆国の航空会社を使わなければならないというもので、アメリカ政府が標榜してきた自由競争に反するような政策である。なぜこのような法律が制定されたのかを明らかにするために、本研究は、アメリカ政府による民間航空会社の軍事動員とその解除がもたらしたアメリカ民間航空会社の苦境と、それに対する日本航空の競争力の強化について研究するものである。

CLOSE
高田 馨里比較文化学部教授R5~R8
古代中世宮廷女性の生活空間と儀礼-舗設の復原と後世における伝承過程-

古代中世宮廷女性の生活空間と儀礼-舗設の復原と後世における伝承過程-

代表者は、11世紀から13世紀頃を中心に、女性が参加した儀礼と生活の空間、舗設の復原的研究を推進する。特に、打出・几帳・御帳などの使い方を分析する(赤澤)。
研究分担者は、絵画・古典籍の所在把握、調査時の史料の筆跡や年代把握、知見の提供、各史料の制作環境、空間を構成する襖・屏風・杉戸の画中画について分析する(河田)。また、宮廷主題の絵画及び、近世宮廷絵師の古典主題の絵画の図像、調度・工芸品の意匠、宮廷女性の生活文化等の分析を担当する(大口)。舗設や衣服の染織品の文様・形状・色彩・装飾などを分析し、平安時代中期から後期、院政期・鎌倉時代における、唐風から和風、変容までの過程を分析する(伊永)。

CLOSE
赤澤 真理家政学部准教授R5~R8
高齢者の下部尿路症状を予測する遂行機能評価と介入法の開発

高齢者の下部尿路症状を予測する遂行機能評価と介入法の開発

本研究は、介護者・要介護者双方にとって心身の負担が大きい排泄に係る問題(下部尿路症状:Lower Urinary Tract Symptoms:LUTS)に焦点を当て、一般高齢者から要介護高齢者を対象に排泄自立の維持に有効な評価および介入法の開発を目指す。そのために、申請者が既に見出している(1)LUTSを予測する遂行機能評価とその応用可能性の追検討および排泄問題の実態調査、客観的な裏付けを得るための(2)MRIによる脳画像解析を駆使したLUTSの高次神経基盤の解明、そして、以上(1)(2)の成果を踏まえた(3)排泄自立へ向けた介入プログラムの作成および介入法の検証を5ヵ年計画で行う。

CLOSE
原野 かおり人間関係学部教授R5~R9
挑戦的研究(萌芽)車両用座席シートの審美的快適性の研究―白色化防止座席シート開発への提言―

車両用座席シートの審美的快適性の研究―白色化防止座席シート開発への提言―

車両用座席シートの白色化が生じるメカニズム解明と白色化を防止することで座席シートの審美的快適性を求めることを目的にしている。
学生を対象にした座席シートの審美的快適性のアンケート調査を2020年度に予定していたが、アンケート調査は緊急事態宣言、蔓延防止などの発令により、授業がオンラインとなり学生のアンケート調査が困難となった。しかし、コロナ禍により気になる点をオンラインにより調査したところ、「電車の座席」という回答が多くあり、電車の座席シートのアンケートをオンラインで実施した。学生だけでなく世代が異なる電車を多く使用する30歳代~60歳代前半の男女についても座席シートの審美的効果のアンケート調査を行うことにし、アンケート用紙の作成をした。コロナ禍もあり、在宅勤務者が多く、被験者を募るのが大変でアンケート実施までに至っていない。
白色化の再現実験、未使用座席シートと白色化座席シートの測色値により、白色化していると認識する色差、白色化した時の表面形状の観察実験は、コロナ禍により進めることができなかった。

CLOSE
平井 郁子キャリア教育
センター
教授H31~R5
(期間再延長)
若手研究戦後日本社会における和服の歴史社会学的研究

戦後日本社会における和服の歴史社会学的研究

本研究では戦後日本社会における和服ないし着物の具体的な形象の変化とともに、この変遷が人間と衣服の関係性をめぐる理論的な意味について考えることを目的としている。
本年度は、前者については、まずCreated and Contested: Norms, Traditions, and Values in Contemporary Asian FashionにWhat Is the Newness of the New Kimono?: Postwar Japan in the 1940s and 1950sという英語論文を投稿した。拙稿では1950年代にあらわれた〈新しいキモノ〉と称されたその新しいについて検証した。それは戦前の改良服と類似した試みでありながらも、戦後の女性解放という理想とともに、なかでも新たな化学繊維の興隆によって、人びとに〈新しいキモノ〉として扱われたことを明らかにした。
また、『Fashion Talks...』vol.13にて論文「非日常化する着物と衣服を買うことーー1960年代から1980年代(上)」を発表した。この論文では主に1960年代頃より多くの着物が生活着としての着物ではなく、非日常着としての着物となったこと、またそのなかで女性の生涯の幸福という夢幻が雑誌や広告を通して描かれていたこと、同時に「正しい」着物という規範的な言説が生まれ、着物教室や着付け教室などの教育機関にて実践されたことを明らかにした。
一方、後者については、『広告』に論文「衣服と人間の関係史ーーつくること、買うこと、借りること」を寄稿した。そこでは衣服を論じる諸研究にみられる時間意識を4つに弁別した上で、衣服をとらえる曲線的な時間意識の重要性を論じるとともに、現在人間と衣服の関係性が作ることから買うことへ、そして借りることへと根源的な変貌を遂げていることを明らかにした。

CLOSE
小形 道正家政学部専任講師H30~R5
(期間再延長)
ショールーマーとリバース・ショールーマーのアパレル商品情報の探索と購買行動の研究

ショールーマーとリバース・ショールーマーのアパレル商品情報の探索と購買行動の研究

本研究では、アパレル商品を購買するショールーマーとリバース・ショールーマーの購買行動を解明することを目的とし、以下の3つのテーマにて実証分析を行うことを計画した。(1)研究テーマ1:アパレル商品を購買するショールーマーとリバース・ショールーマーの行動プロセスと購買行動傾向の研究、(2)研究テーマ2:対象消費者の満足度を高める情報内容の研究、(3)研究テーマ3:対象消費者に影響を与えるビジュアル・マーチャンダイジング(VMD)の研究である。当該年度においては、上記3つの研究テーマに取り組んだ。まず、研究テーマ1では、ショールーミングあるいはリバース・ショールーミング購買した消費者(1,460名)を対象として2022年2月にアンケート調査を実施した。そして、SNS等の外部情報についてのアンケート調査(研究テーマ2として)、及びVMDに関するアンケート調査(研究テーマ3として)を、研究テーマ1の調査に合わせ、調査対象者も同一として行った。尚、3つの研究テーマ共に仮説を立ててアンケート調査を行い、その結果については、主として共分散構造分析と回帰分析の手法にて分析を行った。本実証分析により、コロナ環境下でのリアル店舗とネット店舗をめぐる、対象消費者の情報探索行動や知覚リスク低減行動を含む購買性向等についての理解を深めることが出来た。特に、これまでの3年間の調査結果を比較考察することで、コロナ環境下での購買行動の変化を理解することが出来た。本研究成果は、消費者行動研究、マーケティング研究面等への波及的な貢献だけでなく、企業のマーケティング実務面にも貢献出来るものと言えよう。

CLOSE
吉井 健家政学部教授H31~R5
(期間再延長)
公民権運動期以降のアフリカ系アメリカ文学における身体的経験としての痛みと親密性

公民権運動期以降のアフリカ系アメリカ文学における身体的経験としての痛みと親密性

昨年度の研究ではおもに、Morrison文学における<癒し>の神秘主義的意味合いについて考察した。JazzやParadiseなどの作品において、Morrisonはキリスト教の異端的神秘主義思想であるグノーシス主義の文書を引用している。先行研究ではこの宗教的文書の政治的解釈がなされてきたが、本研究ではむしろ、Morrison文学が政治を超越しようとしていた可能性を探っている。魔術的リアリズムと称されることもあるMorrisonの作品世界において現実は、客観的・物質的な境界線を引けるような経験ではなく、個人の主観的な意識にかかわる無限の可能性として広がっている。特にSula, Paradise, Loveなどの作品においてはきわめて明白に「あの世」の存在が示されており、そうした現実の複層性が認識されているからこそ死者の蘇生を含むような<癒し>の表象が可能となるのだというひとまずの結論に至った。
神秘主義への傾倒は黒人女性文学においてモリスンが最初の例ではないということも、これまでの研究において突き止めることができた。Zora Neale Hurstonがインドの神秘主義に深い影響を受けていたことを指摘した論文「霊的結婚という夢--Their Eyes Were Watching Godにおける神秘主義」を出版できたことは、昨年度の大きな成果の一つであった。
神秘的な<癒し>に焦点を当てることにより本研究は、政治的議論に終始しがちなアフリカ系アメリカ文学研究が闘争ではなくその超越を目指すことを提唱するものである。昨今、米国において人種やジェンダー、性的指向などをめぐる議論は、激しい二極化の様相を見せている。こうした社会的緊張の中、繰り返し絶望的状況を描きながら希望を照らし出したMorrison、そしてその先駆者としてのHurstonの重要性は増しているように思われる。

CLOSE
石川 千暁文学部専任講師H31~R5
(期間再延長)
不況の知覚が内集団の範囲を狭めて曖昧成員への攻撃を促進するプロセスの解明

不況の知覚が内集団の範囲を狭めて曖昧成員への攻撃を促進するプロセスの解明

昨年度は一昨年度までに続き、資源不足が内集団の狭隘化を導くプロセスを検討した。具体的には、「資源不足はゼロサム信念の高まりを介して内集団の範囲を狭める」という仮説を検証した。
一昨年度末に「新入社員数を決める」という文脈を用いて上記仮説を検証する予備実験を実施していた。この予備実験を分析したところ、仮説と一致しないパターンが見られた。シナリオ等に問題がある可能性が考えられたため、それらを修正して再度実験を行ったところ、仮説と一致するパターンが見られた。しかし、分析対象選定に用いるシナリオ内容確認質問をシナリオ修正に合わせて修正することを失念していた。そこで、これを修正して改めて予備実験を行った。この3つ目の予備実験を基に例数設計を行い、OSFでプレレジした上で本実験を行ったところ、仮説が支持された。すなわち、資源不足はゼロサム信念の高まりを介して、採用する新入社員数を減らしていた。
上記結果は仮説を支持するものだが限界点もあるため、続いて「外国人労働者に関する政府政策への賛否」を従属変数としたシナリオ実験を行った。まず、「外国人労働者受入拡大方針に対する賛否」を従属変数とした。予備実験を行い、それを基に例数設計をし、OSFでプレレジした上で本実験を行ったところ、仮説が支持された。すなわち、資源不足はゼロサム信念の高まりを介して、外国人労働者受入拡大方針への反対度を高めていた。続いて、「外国人労働者帰国推進方針に対する賛否」を従属変数とした予備実験を行った。現在はデータ分析中である。
これら以外に、世界価値観調査データを用いて上記仮説を検証する準備も進めた。また、「資源不足をプライミングされると、内集団成員か外集団成員か曖昧な顔を外集団成員と判断しやすくなる」という知見を追試する研究の準備も進めた。
なお、一連の研究は中島健一郎氏(広島大学)の協力を得て実施された。

CLOSE
竹部 成崇文学部専任講師H31~R5
(期間再延長)
学校建築の社会学的研究

学校建築の社会学的研究

今年度は、これまでの研究蓄積が一定量のものになったと判断し、研究成果を学術書にまとめる一年になった。これまでに検討してきたのは、本研究のメインテーマである学校建築に加え、それと同種のアクティビティを誘発する仕掛けを備えるオフィスデザインおよび公共空間デザインだが、このように異なるビルディングタイプを一貫した観点のもとに比較分析するため、年度の前半は建築学の蓄積および社会学・人類学における建築研究の蓄積を参照し、整理していく作業にあてられた。この作業のなかで、当初念頭に置いていたアクターネットワーク理論という理論枠組のメリットとデメリットが改めて吟味され、本研究の遂行にあたっては、アクターネットワーク理論を標榜することのデメリットが大きい(用いることの認識利得よりも、それを用いたことへの批判が大きい)と判断され、その結果ミシェル・フーコー中期の権力論を参照する方針に改められた。年度の後半は次のようなコンセプトが掲げられた学術書の執筆にあてられた。「自発性を育む学校、アイデアが生まれやすいオフィス、さまざまな人々がかかわり、にぎわう公共空間。私たちが日常的に利用する空間は今日、どのような問題意識と希望のもとでどのように設計され、私たちのふるまいや心理にどのような影響を与えようとするものなのか。フーコー派社会学の立場による学校建築・オフィスデザイン・公共空間デザインの分析から、現代的建築空間が創出するハイブリッドな『主体性』のあり方を明らかにする」。

CLOSE
牧野 智和人間関係学部准教授H31~R5
(期間延長)
近世日朝通交システムの「終焉」-対馬藩朝鮮通詞の視点から

近世日朝通交システムの「終焉」-対馬藩朝鮮通詞の視点から

本研究課題で追究する近世から近代への日朝外交システムの変容/継承について、昨年度に引き続き、近世日朝間の外交折衝事案の検討をすすめた。19世紀前半に計画されながらも実現しなかった朝鮮の外交使節の招聘交渉を取り上げ、日本(幕府・対馬藩)・朝鮮王朝に関する文献・史料を照らし合わせながら、日朝双方の視点から研究を進めた。また、日朝を行き来する人やモノに着目して近世から近代へと広く視野をとり、日朝外交システムの連続性/非連続性をとらえようと試みてきた。
研究対象史料である対馬宗家文書は、日本国内各地および韓国国史編纂委員会に分散して所蔵されているが、Covid-19の流行で、海外への史料調査はまったくかなわず、国内についても引き続き制約の多い状況であった。前々年度までに収集した史料や、開館した長崎県対馬歴史研究センターで収集した史料を用いて分析をおこなった。
その成果の一部は、論文「朝鮮信使大坂易地聘礼交渉と対馬藩」(『朝鮮通信使研究』(韓国・釜山)31号、2021年6月)や、朝鮮史研究会大会での大会報告「朝鮮後期倭館における交流と外交―最前線における通訳官の活動から―」(テーマ『高麗・朝鮮時代における国際交流の諸相―伝播・接触・受容―』、2021年10月)および、韓国・東国大学校文化学術院HK+事業団により開催された第一回国際学術大会での招待報告「貿易/密貿易からみる近世日朝関係」(テーマ『モノから読みとく東ユーラシア世界の躍動性』、2021年12月)として発表した。これらの成果を通じて、日本だけでなく韓国においてもさらなる議論の深化に貢献できたのではないかと思う。

CLOSE
酒井 雅代比較文化学部専任講師H31~R5
(期間延長)
訪問介護事業所における利用者からのハラスメントの要因分析

訪問介護事業所における利用者からのハラスメントの要因分析

介護福祉職は利用者と接する機会の多い専門職である。利用者の介護、心身のケアを中心に行う専門職のため、他職種と比較し、利用者と接する機会が非常に多い。機会が多くなると、高齢者の認知症症状や、障がいのある方の症状による暴言や暴力といったハラスメントを受けやすい専門職であるといえる。本研究では、そのような介護福祉職に焦点を当て、利用者からのハラスメントの対策に必要なハラスメント誘因要因を分析することとしている。また、対象として、施設の介護福祉職に比べ、より密室での被害を受けやすいと考えられる訪問介護事業所を中心にハラスメントの実態調査と対策について検討する。
ハラスメント行為は看護師に対する被害や、虐待案件として報告されているものがあるものの、介護職員が直接的な被害者となった報告は少ない。わが国では、介護職員に対するハラスメントの予防対策として、予防・対策マニュアルが策定されているものの、実際には事業所の注意喚起や対策を目的としているものが中心であり、実際にハラスメント被害に遭わないようにするあるいは、ハラスメントを受けた際の対応策に関しての方策は乏しい。よって、本研究を通して介護福祉職がハラスメント被害を受けないようなマニュアル、ハラスメントにあった際の対応マニュアルの作成を目指したいと考えている。
現在は文献調査、先行研究調査を中心に行なっている。先行研究レビューとして学会誌投稿予定である。先行研究から、介護福祉職は、ハラスメント被害を受けても報告することはせず、自身の成長の機会であると捉えていたり、自分の力不足であることを示している。しかし、対照的にハラスメント被害を受けて、介護職員を続けることが難しい状況まで追い込まれてしまう職員もいた。
本研究を通して介護職員と介護保険サービス利用者の適切なサービス受給関係が築けるようになることを目指していく。

CLOSE
古市 孝義人間関係学部助教R2~R5
(期間再延長)
推論主義に基づく統計教育の改善に向けた基礎的研究

推論主義に基づく統計教育の改善に向けた基礎的研究

本申請研究の目的は,推論主義の視座から現在の統計教育の問題点を考察するとともに,それを改善するアプローチを開発して提案することである。推論主義は統計教育改善のための有望な哲学として注目されているが,具体的にどのように改善し得るのかまではまだ研究がなされていない。問題点の特定とその改善のためには,推論主義についての深い理解が必要になる。
2021年度はとりわけ教科横断的な統計指導,非形式的な仮説検定の指導,統計的アーギュメンテーションなどについて,推論主義の知見を背景にしながら検討した。推論主義では概念化の進展を言語使用の観点から理解でき,習得や活用も言語使用の観点から説明できるが,こうした特徴的な視点を踏まえて考察することができた。例えば,推論主義の観点から統計的アーギュメンテーションを分析することによって,統計的知識を活用して説得的な統計的主張を行うためには,その問題のおかれた文脈に関する知識への習熟の方が重要であることを論じることができた。このことは,統計教育の目標や内容,さらにいえば統計教育や数学教育の射程範囲の再考,教科のあり方の再確認を迫るものである可能性がある。
しかし,推論主義の哲学的アイデアのすべてを検討することができたわけではない。推論主義の知見の利用可能性については,今後も継続して県とする必要がある。この点については,推論主義を専門とする哲学研究者の協力を仰ぎながら進めていきたい。

CLOSE
大谷 洋貴家政学部専任講師R2~R5
(期間延長)
事実婚・内縁の生活史調査による戦後家族史研究

事実婚・内縁の生活史調査による戦後家族史研究

本研究では、生活史という質的調査法を用い、事実婚・内縁に焦点を当てて、日本社会における家族・結婚規範の様相を明らかにすることを目的に調査を進めてきた。本研究は、文書資料と口述資料を組み合わせた総合的な事実婚の戦後史を描こうという試みであり、初年度である2021年度は、特に事実婚当事者に対して生活史の聞き取り調査を中心的に実施した。
結果として、事実婚当事者9名へのインタビュー調査を実施し、さまざまな年代の事実婚の生活史データを収集することができた。調査を通じて、日本社会における「家制度」や近代家族をめぐる規範の様相を確認できたこと、選択的夫婦別姓制度をめぐる現在の問題状況についての論点・枠組みを整理することができたことなどが主な研究実績として挙げられる。また、複数の女性支援団体や当事者団体において報告機会を得たことで、自身の研究成果を社会に還元することもできた。選択的夫婦別姓制度の実現を求めて活動する多くの人々やグループと交流する機会も得られ、次なる調査に向けての研究ネットワークを広げることができた。
こうした生活史データをもとに、同時代の経済状況や産業構造、政策、法制度、あるいは、階層移動や学歴、職業選択などの状況を客観的な歴史的データ・資料と突き合わせながら、事実婚ないし家族・結婚をめぐる規範・実態の変遷を分析している。

CLOSE
阪井 裕一郎人間関係学部准教授R3~R5
1980-90年代を通じたレンタルビデオ店の生成・普及をめぐる歴史社会学的研究

1980-90年代を通じたレンタルビデオ店の生成・普及をめぐる歴史社会学的研究

本研究の目的は、定額制動画配信プラットフォーム(Netflix、Amazon Prime Video等)の隆盛を背景に姿を消しつつあるレンタルビデオ店を対象として、そのメディア文化史的意義を明らかにすることにある。加えて、レンタルビデオ店と定額制動画配信プラットフォームの間にあるメディア文化史的な連続性に光を当てることも目指される。こうした観点から初年度にあたる2021年度は、レンタルビデオ関連雑誌の収集、レンタルビデオ店へのフィールドワークを行った。
特に、レンタルビデオ店が大規模化するプロセスと、そうした大規模店舗を利用する経験のあり方に焦点を当てて分析をした。具体的には以下のことを明らかにした。初期店舗では海賊版ソフトを扱うケースが多く、またポルノソフトが主力商品として提示されていたこともあり、男性向けのアングラな雰囲気が漂っていた。そうした時期を脱し、多様な人びとから利用される店舗へと転換するプロセスでは、新しい展示方法、法改正、店内設計の変容等多くの実践が伴った。また1店舗あたりの収容ソフト数が増加すると、利用者は大量の選択肢から適切なソフトを選択しなければならなかった。そこで活用されたのが、大量の選択肢をソートして提示する専門雑誌だった。こうして1980年代後半に、その後のレンタルビデオ店のあり方およびそれをめぐる文化の原型となる形式が成立していった。これらの成果は投稿論文、書籍への論文執筆によって公開した。

CLOSE
近藤 和都社会情報学部准教授R3~R6
ポスト#MeToo時代におけるジャーナリズム―メディア労組の取り組みを中心に

ポスト#MeToo時代におけるジャーナリズム―メディア労組の取り組みを中心に

本研究は、#MeTooをきっかけとした「ポスト#MeToo」時代のジャーナリズムの変容を、メディア労組を中心とした議論と取り組みに注目し、実証的、理論的に考察し、東アジア地域の日韓における変容を比較社会的に考察することである。2021年度は、その準備段階として、日本のメディア関連労組の整理とともに労組におけるジェンダー関連の取り組みについて歴史社会的に研究することを目標としていた。
2021年の研究実績としては、こうしたメディア労組関連の書籍や情報を収集、整理する一方で、#MeToおよび性暴力(性被害)をテーマとした報道やドキュメンタリーの言説分析と報道制作過程の分析を行った。このように#MeToo報道の言説分析や記者へのインタビューを行った理由は、まず日本の#MeToo報道ではどのような特徴があり、その背景にはどのような要因があるのかを把握、検討するためであった。こうした分析を行うことによって、記者たちが抱えているジャーナリズム組織文化および構造に対する認識、ジャーナリズムの慣行などを確認することができた。
具体的な研究実績については、まず、新聞媒体における#MeToo報道の言説分析と記者に対するインタビュー調査を行った。その成果としては、2022年刊行予定のReporting on sexual violence in the #MeToo era (Routledge)における一つのチャプターを書いている。(“Marginalizing the reporting of #MeToo 2.0 with structural bias in Japan”)また、2020年日本民間放送連盟賞テレビ部門グランプリ、中央審査報道部門最優秀賞をとったテレビドキュメンタリー「がらくた~性虐待、信じてくれますか~」に対する内容分析及び制作者へのインタビューを行った。テレビという現場で、性暴力報道に関わる女性制作者の実践とそれをめぐる組織的、構造的背景を探ろうとした。その成果として、SCMS(Society for Cinema and Media Studies)学会で研究発表を行った。

CLOSE
李 美淑文学部准教授R3~R7
日本文学に描かれた捕虜(POW)の通史的研究:国際法とレイシズム問題を中心に

日本文学に描かれた捕虜(POW)の通史的研究:国際法とレイシズム問題を中心に

本研究では、研究活動スタート支援「「法と文学」の基礎的研究:日本近現代文学のなかの戦争裁判」(課題番号:19K23052)に継続しつつ、日本文学に描かれた戦争捕虜(POW)にさらに焦点を当てて進めることを目的としている。日本文学描かれた捕虜を通志的に研究するにあたって、日本文学が国際法やレイシズム問題をどう取り上げているのかを重点的に研究する。したがって、研究成果は、前の研究課題の最終年度と時期的にも内容的にも重なる部分がある。今年度の最も重要な企画は、BC級裁判で特に問題になった捕虜への待遇や国際法の理解を、文学作品がどう描いたのかを研究するための第一歩として、2021年12月19日にシンポジウム『日本文学から考えるPOW・国際法・レイシズム』を開催したことである。このシンポジウムは、文学研究者のみならず、POW研究の専門家である内海愛子先生をコメンテーターとして迎えることができ、戦争捕虜を描いた文学が形成する主題のなか、とりわけ国際法への理解とレイシズムの問題がいかに重要であるかを再確認することができた。そこで概観的に「日本文学のなかの戦争捕虜」という題で研究発表も行い、今後の研究の基盤となるような問題意識を共有することができた。継続する課題としては、戦争責任や戦時性暴力といった問題を女性文学の観点から考える研究発表も二回行った。(「現代韓国の女性文学における歴史/法の担い手たち-李琴峰『彼岸花が咲く島』に触発されて-」 (『研究会:現代女性文学における法・制度への眼差し』)同志社大学烏丸キャンパス、 2021年9月6日 および、「沈黙を記載した現代史――キム・スム『聞き取りの時間』(2021)を中心に――(『第9回 東アジアと同時代日本語文学フォーラム』) 2021年10月16日)。

CLOSE
金 ヨンロン文学部専任講師R3~R7
アパレルを対象としたD2Cショッパーの情報探索と購買行動の研究

アパレルを対象としたD2Cショッパーの情報探索と購買行動の研究

近年、リアル店舗を持たないメーカーがネット店舗経由で直接消費者に販売するビジネス、すなわちD2C(Direct to Consumer)事業が活況を呈している。本研究では、D2Cのネット店舗にてアパレルを購買する消費者(D2Cショッパー)の知覚リスク低減に影響を及ぼす情報内容やその購買行動を体系的に整理・解明すると共にD2Cに取り組む企業、特に国内の縫製メーカーに向けたマーケティング施策の提案をすることを目的とし、実証研究を行う。本実証研究では、複数の企業が運営するネット店舗やSNSを対象とした分析、連携するリアル店舗調査、そして調査会社を経由したインターネットでのアンケート調査等を行う。

CLOSE
吉井 健家政学部教授R4~R6
オーストラリア文学は英米でどう受容されたのか?-19世紀末から20世紀初頭まで

オーストラリア文学は英米でどう受容されたのか?-19世紀末から20世紀初頭まで

本研究では19世紀末から20世紀初頭に的を絞り、イギリスとアメリカでオーストラリア文学がどのように受容されたのか考察する。一方の国で売れ行きを伸ばした書物が、他方の国では、出版を拒否されたケースが存在しており、オーストラリア文学に対して英米が示した「異なる態度」の原因を明らかにすることを目指す。この問題を考えることは、当時のイギリスやアメリカを特徴づける文化的・時代的な様相を、「北半球の外」から捉えなおす営為であり、それは南半球との関係という視点の弱い、世紀転換期の英米のモダニズム研究に新たな方法論を提示することにつながるため、学術的意義があると考える。

CLOSE
加藤 彩雪比較文化学部専任講師R4~R8
米粒内部の糊化の可視化・定量化に基づく新しい米飯評価方法の確立と食感制御への活用

米粒内部の糊化の可視化・定量化に基づく新しい米飯評価方法の確立と食感制御への活用

食感は米飯の美味しさを決める重要な因子で澱粉の糊化状態の影響を受ける。炊飯による澱粉の糊化は,米外周部から内部に向けて進行するため,炊飯過程の粒内糊化状態は均一ではない。申請者は一粒を機器で一定厚さに圧縮した米飯粒の顕微鏡観察による画像解析情報から,粒内部の性状を評価する手法(圧縮米飯粒法)を独自に考案した。本研究では,糊化度と相関性の高い画像解析条件を見出し,米粒内の糊化の進行や不均一さなど,炊飯過程から炊飯後までの一連の変化を可視化・定量化する新しい方法を確立する。さらに,圧縮米飯粒法で取得した糊化情報と米飯食感の関係を明らかにする。

CLOSE
大田原 美保家政学部教授R5~R7
教科・科目横断的な統計教育の実現に向けた基礎的研究:教科書分析を通して

教科・科目横断的な統計教育の実現に向けた基礎的研究:教科書分析を通して

統計的知識は様々な教科・科目で現れるものの,それらの関連付けはほとんど図られておらず,一貫性のない統計教育カリキュラムになっている。本研究は,教科・科目横断的な統計教育の実現に向けた基礎的研究として,次の3つの問いに取り組む:1. 各教科・科目ではどのような統計的な知識や活動がどのように位置づいているか,2. 各教科・科目で扱われる統計的な知識や活動にはどのような特徴があるか,3. 各教科・科目の統計的な知識や活動をどのように関連付けることができるか。

CLOSE
大谷 洋貴家政学部専任講師R5~R7
近世後期の日朝外交―幕府対外政策の統合的理解―

近世後期の日朝外交―幕府対外政策の統合的理解―

幕府の対外関係の関心が欧米列強へと移り、「日朝外交への関心を失った」ように見える近世後期を対象にして、
(Ⅰ)対馬藩による日朝交渉の実態を、具体的に掘り起こしながら明らかにする。
(Ⅱ)対外関係を担った幕閣およびその官吏集団における朝鮮外交の位置を見極める。
(Ⅰ)で明らかにされる実態が(Ⅱ)にどのように反映されているのか、あるいはその逆はどのように影響しているのかといった、相関関係に着目しながら、幕府の対外政策とくに日朝外交政策を統合的に考察する。

CLOSE
酒井 雅代比較文化学部専任講師R5~R8
里親家庭の子どもの支援に関する包括的研究

里親家庭の子どもの支援に関する包括的研究

本研究は、2016年の児童福祉法改正等により、様々な政策が進められてきている里親制度における子ども支援に着目した研究を行う。これまで国内の里親支援に関する研究や実践は主に里親に対する支援が中心であり、里親家庭の子どもの支援の検討は十分に行われていない。本研究において、国内外の他分野や他領域で行われている子ども支援の取り組みを調査し、里親家庭で生活した経験者へのインタビュー調査をすることによって里親家庭の子どもの必要な支援を明らかにすることを目的とする。多角的な視点から子ども支援を俯瞰することにより、他領域の支援を里親家庭の子どもの支援に応用し新たな支援方法を明らかにすることを目指す。

CLOSE
山本 真知子人間関係学部准教授R5~R8
研究活動スタート支援度量衡から見るベトナムの植民地統治及び社会構造とその地域性

度量衡から見るベトナムの植民地統治及び社会構造とその地域性

本研究は、フランスによるベトナム植民地統治の実態、植民地期ベトナムの社会構造や地域性について、度量衡(計量器、計量単位)の観点から分析・解明するものである。2021年度は、2020年度に引き続き海外渡航が難しい状況が続き、文献資料調査を含む現地調査を行うことができなかった。
その中で、2020年度に行っていた仏領インドシナのアヘン研究(政府専売制産品の度量衡研究の導入として必要)の成果「フランス領インドシナのアヘン」(p.56-72)を収録した『アヘンからよむアジア史』(勉誠出版)が出版された。
また、フランス植民地時代以前の度量衡制度を明らかにする研究も進めている。この研究により植民地統治による変化が、前時代と比較することでより明確に分析することが可能となる。具体的には、フランス人宣教師が1800年代に編纂した辞書、Taberd, J. L. によるDictionarium anamitico-latinum、Huinh Tinh Paulus CuaによるDictionnaire annamite(大南國音字彙)、およびベトナム人官僚によって同じく1800年代に編纂された辞典『日用常談』と『大南国語』を対象に、その中で記載がみられる度量衡関連の用語とその解説を収集し、整理した上で類似点、相違点、変遷などを分析・検討している。さらには、外国人である宣教師とベトナム人の文人官僚によって、度量衡の単位、計量器がどのように把握され、紹介されていたか、それらを重ね合わせることでそれぞれの地域社会への理解の深度や度量衡に対する関心の深さ、あるいは低さが明らかにできる。この成果は、2022年3月11日、日本計量史学会総会後に発表することが決まっていたが、新型コロナ感染症感染拡大により2022年夏に延期されることとなった。

CLOSE
関本 紀子文学部専任講師H31~R5
(期間再々延長)
メディア経験・実践論に基づくメディア記憶の構築過程の分析と太平洋戦争の記憶

メディア経験・実践論に基づくメディア記憶の構築過程の分析と太平洋戦争の記憶

本研究では、人々の経験や実践の多くがマス・メディアやソーシャル・メディアを経由する現代社会において、メディア経験・実践による集合的記憶(過去の出来事に関する社会的に共有されたイメージ)の構築過程を明らかにする。
具体的には、人々のメディア経験・実践の多様性と多層性を分析するメディア論的な視点と集合的記憶論を理論的に接合したうえで、アジア・太平洋戦争の記憶の構築過程を実証的に分析する。戦後75年以上が経過した現在でも、アジア・太平洋戦争の記憶はさまざまなメディアを通じて構築されている。この構築過程を実証的に分析することが、本研究の実証的な課題である。

CLOSE
佐藤 信吾社会情報学部専任講師R5~R6
特別研究員奨励費戦間期のポーランド共和国(1918-39 年)における言語政策の研究貞包 和寛家政学部専任講師R5~R6

短期大学部

※研究課題名をクリックすると課題詳細がご覧いただけます。

研究種目等研究課題名研究代表者所属職名研究期間
(年度)
基盤研究(C)タゴール仏教文学とその思想的背景―英語文学が繋ぐタゴールと近代日本仏教

タゴール仏教文学とその思想的背景―英語文学が繋ぐタゴールと近代日本仏教

ラビンドラナート・タゴールは、詩人としてのみならず思想家としても高い評価を受けているが、その特色は大乗仏教についての深い理解にあった。だが、その背景と原因については、これまでほとんど論じられることがなかった。
本研究は、タゴールの独自の思想形成の背景にあったものが、岡倉天心をはじめとする日本の思想家たちとの親密な交流であり、彼らが著した膨大な英文の著作であり、そこに見られる大乗仏教の独自の解釈であったことを明らかにするとともに、19世紀後半から20世紀初期の時代において、国境を越えたアジアの思想交流に果たした英語文学の重要な役割に光を当てようとするものである。

CLOSE
大平 栄子英文科教授R5~R7
大規模スクリーニングで得た出芽酵母局在化RNA、MSA1 mRNA及びEGD1 mRNAの解析

大規模スクリーニングで得た出芽酵母局在化RNA、MSA1 mRNA及びEGD1 mRNAの解析

遺伝情報は、遺伝子の本体であるDNAからRNAに写し取られて発現する。したがって、RNAの細胞内局在化は、遺伝情報を空間的に制御するための重要な現象である。RNAの局在化により、細胞内では情報の偏りが生じ、細胞の極性形成や分化が誘導される。我々は、真核生物のモデル系である出芽酵母を用いて、細胞内で特異的な局在を示す新規の局在化RNAを多数発見した。本研究では、これらの新規局在化RNAのうち、細胞周期に関わるMSA1 mRNAとタンパク質の安定性に関わるEGD1 mRNAについて解析する。将来、RNAの局在化制御が可能となれば、医療分野や農業分野等への幅広い応用が期待できる。

CLOSE
竹内 知子家政科教授R5~R7

※大学および短期大学部の過去の採択状況は、科研費 過去の採択状況をご覧ください。

全国学校別 採択件数・配分額一覧表 令和5(2023)年度

※文部科学省ホームページ 科学研究費助成金 配分結果」にて公表された資料を基に本学が作成しました。

大学

短期大学部

※2024年2月頃 掲載予定