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  • 人間文化研究科修了生の修士論文研究が日本栄養・食糧学会学会誌に掲載–「おからパウダーの摂取が腸内細菌叢と短鎖脂肪酸産生に与える効果を実証 - 無作為化二重盲検試験(ヒト介入試験)等により科学的知見を獲得」

人間文化研究科修了生の修士論文研究が日本栄養・食糧学会学会誌に掲載–「おからパウダーの摂取が腸内細菌叢と短鎖脂肪酸産生に与える効果を実証 - 無作為化二重盲検試験(ヒト介入試験)等により科学的知見を獲得」

大学院人間文化学研究科・青江誠一郎教授の指導の下、岸村康代さん(大妻女子大学大学院人間生活科学専攻修士課程2023年3月卒業)が修士論文研究で実施した、「おからパウダーの摂取が日本人成人女性の腸内細菌叢および短鎖脂肪酸産生に及ぼす影響」に関する研究において、大豆食物繊維が豊富な「おからパウダー」に含まれる多様な食物繊維の影響を明らかにし、おからパウダー(大豆食物繊維)に関する日本人におけるヒト試験およびヒト糞便を用いた糞便培養試験と併せて検証することで、最新の知見を得ました。その内容が、和文誌では歴史ある日本栄養・食糧学会学会誌 第78巻4号(2025年8月10日発行)に掲載されました。

今回の研究では、食物繊維が豊富なおからパウダーの摂取がヒトの腸内細菌叢および短鎖脂肪酸に及ぼす影響を調べることを目的として試験を実施しました。

≪研究成果の概要≫
※本文内の「Bacteroides」、「Firmicutes」、「Bacteroidetes」、「Barnesiella」は、正式にはイタリック表記とする。

●学術誌名:日本栄養・食糧学会学会誌 第78巻4号(2025年8月10日発行)
●タイトル:「おからパウダーの摂取が日本人成人女性の腸内細菌叢および短鎖脂肪酸産生に及ぼす影響」
●研究成果:健康な日本人女性を対象とした無作為化プラセボ対照二重盲検試験(ヒト試験)と糞便培養実験を実施。おからパウダーにより、以下のような結果が得られました。
・腸内細菌の多様性指標(α多様性)が増加
・腸内細菌の構成が有意に変化(F/B比の低下、Bacteroides属等の増加)
・酪酸産生菌が増加する傾向
・おからパウダーは日本人を対象としたヒト試験およびヒト糞便培養試験でも腸内細菌叢を改善し、短鎖脂肪酸を産生することが示された

【社会的背景】
近年、腸内環境の改善が全身の健康維持に重要であるとの認識が高まるなか、食物繊維を豊富に含む伝統食材「おから」の機能性に注目が集まっています。食物繊維は、摂取することで数多くの生活習慣病の発症率を低下させることが報告されている重要な栄養素であり、世界的に関心が高まっています。また、成人女性においても目標量に届かず、食物繊維の摂取量が不足している現状があります。また、食物繊維の質も重要な要因であり、食品形態での食物繊維摂取が推奨されています。また、食物繊維の機能性として、腸内発酵を促進する発酵性食物繊維の機能が着目されています。
こうした社会的背景を踏まえ、本試験により、大豆食物繊維が豊富なおからパウダーの腸内細菌叢および短鎖脂肪酸産生に及ぼす影響について検証しました。

【研究の経緯】
食物繊維が豊富なおからパウダーは、不足しがちな食物繊維の摂取に役立つ素材です。また、発酵性食物繊維の一種とされるオリゴ糖を多く含むことから、高い腸内環境改善効果が期待されます。しかしながら、これまでヒト介入試験は実施されていませんでした。今回の研究では、ヒト試験およびヒト糞便を用いた大腸モデル糞便培養試験により、おからパウダーの腸内環境改善効果および短鎖脂肪酸産生について検証しました。

【研究の内容】
◇(研究1)食物繊維を豊富に含むおからパウダーの腸内環境改善効果の検討(無作為化プラセボ対照二重盲検試験(ヒト介入試験))
おからパウダーを健康な日本人女性24名に4週間摂取させ、腸内細菌叢の変化と短鎖脂肪酸産生に及ぼす影響を調べた結果、おからパウダー摂取によりFirmicutes門/Bacteroidetes門比(F/B比)の低下、およびBacteroides属とBarnesiella属の占有率の有意な増加がみられ、α多様性の指標の有意な増加がみられました。
α多様性については、近年、腸内細菌叢の多様性が注目され、多様性の低下と各種疾病の罹患に関連があることが報告されています。腸内環境の多様性が失われると、身体的な疾患のほか、うつ病などの精神的な疾患との関連がみられることも数多く報告されています。
ヒト試験では、先行研究と同様に、短鎖脂肪酸が大腸のエネルギー源として速やかに利用されていることが考えられたため、ヒト糞便を用いた大腸モデル糞便培養試験により短鎖脂肪酸産生についてより詳細に検証しました。

◇(研究2)食物繊維を豊富に含むおからパウダーの短鎖脂肪酸産生の検証(ヒト糞便を用いた糞便培養試験)
4名のヒト新鮮糞便を用いて 48時間の糞便培養試験を行い、短鎖脂肪酸産生量を調べた結果、おからパウダーにより酪酸産生菌の占有率が増加する傾向がみられ、短鎖脂肪酸の中でもn-酪酸(以下、酪酸)を多く産生する可能性が示されました。
これまでの研究において、発酵性の食物繊維を含む食品の摂取は、腸内細菌叢を変化させ、その代謝産物である短鎖脂肪酸を産生することにより免疫や代謝、血糖値調節、腸管バリア機能、食欲抑制など、ヒトの健康に影響を及ぼすことが知られています。
酪酸は近年、注目を集める短鎖脂肪酸の1つで、近年、酪酸をはじめとする短鎖脂肪酸は、炎症性腸疾患や大腸がん、神経疾患、精神疾患などのさまざまな疾患との関連や免疫機能にも関係していることが多くの研究で明らかとなっています。

以上のことから、おからパウダーは日本人女性の腸内細菌叢を変化させ、多様性を増加させること、および腸内発酵性の食物繊維を含むことが示されました。

※図はすべてヒト介入試験
出典:日本栄養・食糧学会誌 第78巻4号(2025年8月10日発行)

【論文情報】
論文名:おからパウダーの摂取が日本人成人女性の腸内細菌叢および短鎖脂肪酸産生に及ぼす影響:無作為化プラセボ対照二重盲検試験
著者名:a岸村 康代, b青江 誠一郎
所 属:a大妻女子大学大学院人間生活科学専攻修士課程2023年3月卒業,b大妻女子大学家政学部教授
掲載誌:日本栄養・食糧学会学会誌 第78巻4号(2025年8月10日発行)
公開ページ:日本栄養・食糧学会誌

【大学院人間文化学研究科・青江誠一郎教授のコメント】
「近年、食物繊維が注目され、その中でも発酵性食物繊維が注目されています。また、腸内細菌の多様性にも注目が集まり、多様な食品から食物繊維をとることが推奨され、その結果、腸内の多様性が増えることが理想的です。これまで多くの食品において食物繊維の発酵性や腸内細菌の多様性を検証してきましたが、1つの食品でこのように多様性が増えるということは他の食品ではなかなか見られない結果で、今回、科学的に腸内環境改善への効果を実証できたことは、女性の健康支援や食生活改善の一助になると感じています」

【岸村康代さん(大妻女子大学大学院人間生活科学専攻修士課程2023年3月卒業)のコメント】
「おからパウダーは、健康志向の高まりとともに食物繊維や大豆たんぱく質など現代社会に必要とされる栄養が詰まった食品だと思います。おからはその多くが産業廃棄物として捨てられている背景があることからも、社会課題の1つです。腸内環境の改善だけでなく、環境配慮にもつながる点から、社会的意義のある研究となりました。今注目の食物繊維の発酵性や腸内細菌叢の多様性を増やす素晴らしい食品として、注目いただけたらと思います」