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【学長通信】国際共同研究の旅で

ここ数年、「国際金融システムの構造と動態」といったテーマでの研究を続けてきました。もともと、中央銀行の金融政策や国際金融システムの動態が私の主要な研究領域だったのですが、2008年のリーマン・ショック後、こうした出来事をどのように把握したらいいのかということで共同研究の機会が増え、そのため海外に出かけることも多くなりました。

国際金融システムは、現在も不安定なままに推移しています。国家間、先進国間の政策協調もなかなか合意に達しません。「なぜそうなっているのか」、「システムの安定のためには何が必要なのか」、「どこを変えればうまくいくのか」。こういった問題を解くためには、現在だけを見ていては駄目で、歴史にさかのぼることが必要不可欠です。最低限、第二次世界大戦後、戦後の出発点まで振り返らないと、現在はわかりません。

ということで、第二次大戦直後のシステム創生期、1970年代初めのニクソン・ショック期、1990年代の大安定期などを調べることになります。国際金融機関や各国の公文書館で、会議の議事録や政策担当者のメモなど、当時の資料を検索します。そして、それらを読み込んでいくことで、戦後の国際金融システムが、どのような考え方のもとに、どのような仕組みとして作られていったのか、そしてそれがどのように機能してきたのかといったことが、改めて確認できます。そうした作業を通して、はじめて現在の問題点が検出できるようになると考えられます。

ワシントンDCでは、IMF(国際通貨基金)・WB(世界銀行)やNA(米国国立公文書館)で関連資料を検索し、政策担当者へのインタビューも行いました。パリでは、OECD/WP3(経済政策委員会第3作業部会)という先進国の金融政策中枢の未公開会議録を大量に発掘しました。バーゼルでは、BIS(国際決済銀行)先進国中央銀行会議の議事メモなども読むことができました。これらの共同研究の一部は、すでに英文の著作として刊行しました。まだ、進行中のプログラムもあります。

こういった一連の調査のなかで、心に残ったことが二つあります。ひとつは、どこの国でも、どの機関でも、文書がきちんと残されていることです。自分たちに都合のいい文書だけでなく、都合の悪い文書もきちんと残されています。公開できない文書も、not to openとか、confidentialと、その文書名とともに書かれていて、どの文書が非公開なのか分かります。2001年に情報公開法が、2011年に公文書管理法が施行されたにもかかわらず、わが国ではそのどちらもできていません。

もうひとつは、担当部署における女性職員の多さです。単に多いだけでなく、管理職として責任を担っている女性職員が、どの機関でも相当数在職しています。こちらの面倒な要請や分類のはっきりしない一次資料の検索などに対しても、親切・丁寧に応答してくださいましたし、専門性のかなり高い質問にも迅速・的確に応対していただきました。こうした女性職員をこれからどのように育てていくかは、わが国の大きな課題でしょう。本学でもこうした課題に対応できるように努力しなくては、との思いを強く持ちました。

 

学長  伊藤 正直