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【学長通信】川崎の日本民家園について

学長通信

小田急線向ヶ丘遊園駅南口から10分ほど歩くと、生田緑地にでます。首都圏を代表する緑豊かな都市計画緑地で、雑木林、谷戸の湿地、湧水などが広がっており、この自然を背景に、岡本太郎美術館、かわさき宙と緑の科学館、藤子・F・不二雄ミュージアム、ばら苑などの施設があり、その一角に日本民家園・伝統工芸館もあります。近くに住んでいたこともあって、気候のいい時など、時々散歩がてら何回か訪問しました。


日本民家園は、川崎市立の野外博物館として1967年に開園した施設です。高度経済成長の中で急速に消滅しつつあった古民家を永く将来残すことが目的で、園内には、現在25件の建物が、移築復原されています。日本民家園は、自らの使命を次のように述べています。「1 主に江戸時代の古民家を移築復原し、良好な状態で後世に伝えます。2 古民家・伝統的生活文化にかかわる資料を調査収集し、展示・普及活動を行います。3 日本を代表する民家博物館として、国内外に情報を発信します。4 生涯学習やくつろぎの場として、地域に親しまれ必要とされる博物館をめざします。」


移築復原されている建物や日本民家園の活動は、どのようなものでしょうか。25件の建物はすべて国、県、市の文化財に指定されており、うち7件は国指定重要文化財となっています。東日本の代表的な民家をはじめ、水車小屋・船頭小屋・高倉・歌舞伎舞台などがあります。移築元は都道府県別にみると、岩手県1、山形県1、福島県1、茨城県1、千葉県1、神奈川県8、山梨県1、長野県3、富山県3、愛知県1、岐阜県1、三重県1、奈良県1 、鹿児島県1と、東日本を中心に全国にわたっています。


国の重要文化財に指定されているのは、長野県南佐久郡の佐々木家、富山県南砺市の江向(えむかい)家、千葉県山武郡の作田家、茨城県笠間市の太田家、神奈川県秦野市の北村家、同川崎市の伊藤家、岩手県紫波郡の工藤家の7件です。また、志摩半島の漁村の歌舞伎回り舞台「船越の舞台」は、国重要有形民俗文化財に指定されています。


富山県南砺市の江向家は、富山県五箇山地方の合掌造りの家です。18世紀初期に建築され、切妻造、妻入、茅葺(かやぶき)、田の字型四間取りといった特徴を持つとても美しい作りです。神奈川県秦野市の北村家は、1687年建築の名主住居です。寄棟造、茅葺で日常生活の場であるヒロマは、簀子(すのこ)と板の間に分かれており、簀子には必要に応じてむしろを敷いたそうです。建築年次がはっきりわかるのは、柱の隅に棟梁が、自分の名前とともに年次を墨書しているためです。日本で最も重要な民家のひとつです。


三重県志摩市の船越の舞台は、幕末1857年に建てられたもので、神社の境内にありました。建築の様式は、正面が入母屋造、背面切妻造、桟瓦葺(さんがわらぶき)で、舞台装置は直径三間の回り舞台、せりあがりのある花道、高所作業用の簀子など、歌舞伎芝居のための装置はほとんど備わっています。また、鬼瓦や軒先瓦には「若」の字が刻印されており、建築に、伝統的若者組が係わったことを示しています。


民家園入り口の本館には、2つの展示室があり、第1展示室では、日本の古民家の間取りやかたち、古民家の作り方、家と環境の関係などが展示されています。第2展示室では、毎年2回の企画展示が行われてきました。例えば、2015年は「むかーしむかしの道具たち」、2016年は「家で生まれる、家と育つ」「ふしぎ古民具大集合」、2017年は「日本民家園今昔物語」、2018年は「結び展」「民家の暮らしと生きもの」、2019年は「いただきます」などが開催されています。


さらに、はた織り、わら細工、竹細工、座繰り実演、漆継ぎ、型染め、絞り染めなどの体験講座やワーク・ショップ、人形浄瑠璃、農村歌舞伎、獅子舞、ベーゴマ大会、草玩具造りなどの芸能や催し事も、年間を通して、さまざまな形で開催されています。何軒かの古民家では、正月や節句などの年中行事、床上公開などを行い、当時の実際の生活がどのようであったかも知ることができます。ゆっくり回れば、日本民家園だけでも1日勉強できます。生田緑地の他の施設とハシゴしてもいいでしょう。


学長  伊藤 正直