お知らせ - 2020年

【学長通信】数ないしは数詞について

学長通信

先月、篆書(てんしょ)の拓本を紹介しました。この石碑には、篆書の数字、数詞ですね、この数字も石刻されていました。1から9まで、どのような文字であったかは、次の通りでした。

現在の漢数字の原型といっていいでしょう。こうした数字はどのようにして生まれてきたのでしょうか。


最近の認知科学や神経心理学の研究では、人間は、先天的に「数感覚」を有していること、ただし、この先天的な数感覚は視覚的には3ないし4まで、触覚的にはさらに狭いこと、そしてアナログ的連続量やデジタル的な離散量といった数感覚は後天的に獲得され拡大していくこと、などが、知られるようになっているそうです(スタニスラス・ドゥアンヌ 『数覚とは何か』)。


この数感覚を記録するようになったものが数字です。数字が記録されている最古のものは、紀元前3500年頃のシュメール文字、エジプトのヒエログリフ、紀元前1200年頃の古代中国の甲骨文字 などで、いずれも線を並べることで表現されていました。1は一本の線、2は二本の線、3は三本の線という形です。線は線に過ぎませんから、数字が記録されるということは、この数字に対応する具体的なものがあったはずです。食べ物だったり、着る物だったり、鉱物だったり、これが「1対1」で線に対応するわけです。こうした数を基数といいます。


これに対して、例えば、小学生10人を一列に並べて前から3人目を呼ぶとき、「3番目のCさん」と言ったりします。この3番目も数字で表すことができ、こちらは序数といいます。対応だけからなる基数が先に生まれ、その後、対応と順序づけを行う序数が生まれたと考えるのが普通だと思いますが、「原始の文化や言語をどんなに入念に調査しても、そのような時間的な前後関係は明らかにならない。数の技術が存在する場所では必ず、数の両方の側面が見つかる」、そして、そのことは人間が指を使って数えることと関係しているとのことです(トビアス・ダンツィク『数は科学の言葉』 )。5本の指を同時に曲げたり伸ばしたりする、あるいは、指を順番に曲げたり伸ばしたりする。前者では、指を基数として使ったことになり、後者では、指を序数として使ったことになる、というのです。


ヨーロッパの言語、英語、フランス語、ドイツ語では、この基数を表す言葉と序数を表す言葉が両方あります。例えば、英語では、one/first、two/second、three/third、フランス語ではun[e]/premier[première]、deux/deuxième、trois/troisième、ドイツ語では eins/erst、 zwei/zweit、drei/drittとなり、前者を基数詞といい、後者を序数詞といいます。これに対して、アジアの言語の多く、日本語や中国語には、このような独立した序数詞がありません。


では、日本語は、数をどのように表しているのでしょうか。まず、基数詞ですが、漢字とともに中国から渡来した漢語の「いち、に、さん」という呼び方と、固有の和語である「ひとつ、ふたつ、みっつ」という呼び方が、併用されています。文字としては、1、2、3というアラビア数字、あるいは一、二、三という漢数字を使います。序数詞については、上に述べたように、日本語には独立した序数詞はありません。その代わりに、第二、第2回、2回目、2番目、2位といった形で、基数詞の前や後に、第とか目をつけて順序を示したりしています。中国語もほぼ同じで序数を表すときは、第や次といった接語を使います。


もうひとつ、日本語や中国語には助数詞(中国語では量詞という)があります。日本語の助数詞は大変多く、数え方によっては500種類を超えるともいわれています。日常頻繁に使われる助数詞、「個」(小さいもの)、「枚」(薄いもの)、「本」(細長いもの)、「冊」(本など)、「台」(乗り物)、「杯」(飲み物)などから、よく使うけれども限定的な助数詞、「歳」(年齢)、「軒」(家)、「足」(靴)や、特定の場合にしか使わない助数詞、「貫」(寿司)、「棹」(箪笥)、「張」(テント)、「帖」(海苔)、「首」(和歌)、「句」(俳句)、「局」(囲碁)など、いろいろです。中国語の助数詞(量詞)も200種類以上あり、名詞を修飾する「個」「張」は名量詞、「回」「次」など動詞を修飾するものは動量詞と呼ばれています。


このように日本語は、数詞にさまざまな助数詞をつけて、対象を把握しています。ものや出来事によって、別々の数え方をするという日本語の特性は、多様性や多元性を保証しているともいえます。数というと、小川洋子『博士の愛した数式』(新潮社)以来、友愛数とか完全数の話や、フェルマーの最終定理、ゴールドバッハ予想 、双子素数の話など数論の話も沢山あるのですが、今回は数詞の話、日本語の話でした。


学長  伊藤 正直