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【学長通信】「持続可能な開発」とは?


最近、SDGs(エスディジーズ)という言葉があちこちで聞かれます。2015年の国連サミットで採択され、2030年までの15年間に取り組むべきさまざまの目標を掲げた「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。2001年に国連で策定されたMDGs(Millennium Development Goals)を引き継いだものですが、MDGsが開発途上国を対象とし、①貧困・飢餓,②初等教育,③女性,④乳幼児,⑤妊産婦,⑥疾病,⑦環境,⑧連帯の8つを目標としていたのに対し、SDGsの方は、先進国を含めたすべての国が追求すべき17の目標、その下に169のターゲットを掲げています。


その17の目標は、次のとおりです。ちょっと長いですが列挙してみます。①貧困をなくそう、②飢餓をゼロに、③すべての人に健康と福祉を、④質の高い教育をみんなに、⑤ジェンダー平等を実現しよう、⑥安全な水とトイレを世界中に、⑦エネルギーをみんなにそしてクリーンに、⑧働きがいも経済成長も、⑨産業と技術革新の基盤を作ろう、⑩人や国の不平等をなくそう、⑪住み続けられるまちづくりを、⑫つくる責任つかう責任、⑬気候変動に具体的な対策を、⑭海の豊かさを守ろう、⑮陸の豊かさも守ろう、⑯平和と公正をすべての人に、⑰パートナーシップで目標を達成しよう。目標としている範囲が、かなりの広がりをもっていることがわかります。それだけ認識が広がったともいえますし、逆に、問題が複合化し深刻化したともいえます。


SDGsは、2015年の国連サミットにおいて全会一致で採択されました。5年前のことです。そして、その実現のために、すべての国が行動することを要請する「普遍性」、誰一人として取り残さないように目標を追求する「包摂性」、あらゆる利害関係者が役割を担う「参画型」、社会、経済、環境といった問題群を包含して捉える「統合性」、目標達成のプロセスを常時点検し公表する「透明性」の5つを、今回のSDGsの特徴として自己規定しました。


この17の目標について異議のある人は誰もいないでしょう。先進国も新興工業国も開発途上国も、アジアもヨーロッパも南北アメリカもアフリカも、熱帯地域から寒帯地域まで、共同してこの目標のために努力しようという合意が、国連の場でえられたことはとても貴重なことです。しかし、この17の目標、その一つひとつを具体的に実現するとなると、多くの困難が立ちはだかっています。


例えば、この17の目標のなかには、環境に関わる目標がいくつかあります。環境問題が地球人類の存続にとって根幹的な問題であると、国際的な場で協議されるようになったのは50年ほど前からのことです。1972年スウェーデンのストックホルムで開かれた国連人間環境会議以降、世界各国で環境関連省庁が設立され、さまざまな形で環境政策が行われるようになりました。国際的にも、1982年に海洋および国際河川の汚染防止のためにジャマイカのモンテゴ・ベイで締結された国連海洋法条約、85年にオゾン層保護を目的として結ばれたウィーン条約、87年にフロンガス使用の規制を目的として採択されたモントリオール議定書、92年に生物多様性の保護のために結ばれた生物多様性条約、同じ92年に温暖化防止を目的としてニューヨークで採択された気候変動枠組条約などが、この時期に締結されました。


しかし、1992年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開かれた地球サミットでは、環境問題をめぐる国家間の対立が表面化しました。その対立は、一つは先進国と途上国の対立として、もう一つは、先進国内部の対立として現れました。先行したのは、先進国と途上国の対立です。すなわち、先進国側が、地球環境問題は人類共通の課題で、経済発展の度合いに関わらず共通に対策を要する問題だと主張したのに対し、途上国側は、環境問題の責任は先進国にあり、人口増加や貧困といった問題解決のためには環境保全よりも経済発展を優先せざるをえないと反論したのでした。


これまで環境保全より経済発展を優先させてきた先進国が、突然途上国に経済発展を抑制して環境保全対策に参加せよと主張しても、途上国にそれを受け入れる経済的余裕があるはずもないというのです。もっとも、人口増加と貧困という問題を抱えた途上国では、「貧困と環境悪化の悪循環」という問題、すなわち、人口増加による無理な耕地開発は森林面積の減少や土壌劣化、洪水の発生、水質汚染、大気汚染といった環境問題をもたらし、さらなる貧困を招いてしまうという問題を内包していることも徐々に明らかになりました。加えて「環境ダンピング」と呼ばれる問題もあります。先進国の企業が環境規制の緩い途上国に工場を移転させることで、進出先の環境を悪化させてしまうというケースです。


もう一つ、先進国内部の対立も、現在まで引き続く問題です。SDGsの⑬気候温暖化の目標は、先進国内部の意見不一致によって、具体化が妨げられてきた代表例です。1997年に、第3回気候変動枠組条約締結国会議(COP3)で作成された京都議定書に対し、世界最大の温室効果ガス排出国であるアメリカは、2001年に離脱を宣言しました。また、京都議定書から18年ぶりにCOP21で採択されたパリ協定は、いったんはアメリカと中国の同時批准、EUの法人としての批准によってスタートしたかに見えましたが、トランプ大統領の反対によってアメリカは2019年11月に正式離脱してしまいました。2019年12月にマドリードで開催されているCOP25も、大幅な排出削減に消極的な米中や日本、目標の深堀を求めるEUや島しょ国の対立があり、具体策に踏み込めない状況です。


「持続可能な開発」を実現するためには、先進国と途上国によるさらなる協力、先進国内部における対立の調整が必要です。それまでの資源浪費型の生活スタイルを見直し、リサイクルの普及、環境負荷の少ない工業製品への移行を進めていくこと、途上国側がそうした生活スタイルを定着できるようなさまざまの支援を持続的に進めていくことが求められています。


学長  伊藤 正直