お知らせ - 2019年

【学長通信】お金って何?


キャッシュレス化が世界的に広がっています。買い物の支払いや取引の決済に現金を使わない、電子マネーやICカードやクレジットカードで決済する、こうした状況をキャッシュレス化といいます。2018年4月の経済産業省調査(経済産業省商務サービスグループ『キャッシュレス・ビジョン』)によれば、世界各国のキャッシュレス決済比率は、韓国89.1%、中国60.0%、以下カナダ、イギリス、オーストラリア、スウェーデン、アメリカと続き、いずれも50%前後であるのに対し、日本は18.4%となっています。


中国で、近年、急速に普及したのは、スマホでQRコードを読み取って支払いを済ませるモバイル決済です。中国の2大IT企業のアリババとテンセントが提供するAlipay、WeChatPayを使って決済する仕組みで、専用のカードリーダーも不要で、お店は、QRコードを印刷した紙切れを置いておくだけでいい。このモバイル決済は、個人間送金の仕組みを利用しているので、クレジットカードや加盟店方式の電子マネーに比べると、店舗側の負担はほとんどありません。現金を扱わないので釣銭もいりません。コンビニでも露店でもどこでも使える、というとても簡便なものです。2017年からアリババは、顔認証システムを導入しため、カメラさえあればスマホも不要になってきたそうです。もともと、現金に対する信頼性が低かったこと、銀行システムが普及していなかったことなどが、モバイル決済急拡大の背景にあるようです。


スウェーデンやノルウェーなどの北欧諸国も、キャッシュレス先進国です。北欧諸国は、1990年代の初め、ノルディック・クライシスといわれた厳しい金融危機に見舞われ、これをきっかけにキャッシュレス化が進んだとされています。スウェーデンの方式は、スマホの電話番号とBankIDを結び付けるSwishというアプリを使って、スマホで決済を済ませるというもので、中国と同じように、スマホでQRコードを読み取って支払いを済ませることもできます。ノルウェーでも現金決済の比率は10%以下となったと、2018年にノルウェー中央銀行が表明しています。


中国や北欧諸国のモバイル決済に対して、アメリカや韓国でのキャッシュレス化は、クレジットカード、デビットカードの普及によるものでした。アメリカを旅行したことのある人なら頷いてもらえるでしょうが、どこでもクレジットカードやデビットカードが使えますし、現金よりも割引率が高かったり、サービスが良かったりします。また、シェアリング・エコノミーの進展により、例えば、Uberという配車アプリをスマホに登録しておくと、GPSを利用して、自家用車による配車サービスを受けることができ、クレジットカード決済が自動で行われるようになっています。韓国では、クレジットカードの利用率は、アメリカよりもさらに高く70%を超え、その他の電子決済を含めると、現金決済の割合は10%を下回るともいわれています。


このような中国や北欧、アメリカや韓国のキャッシュレス化に対し、わが国のキャッシュレス化は、始めに見たように、18.4%と著しく低い水準に止まっています。中国などとは異なり法定通貨=現金への信頼が高い、ATMが普及している、カード決済に対応していない店舗が多い、キャッシュレス決済への抵抗が大きいなどが、その理由に挙げられています。しかし、インターネット環境の急速な拡大、ICT、IoT、AIの普及は、さまざまな形での電子決済を拡大させざるを得ないでしょう。フィンテック、ブロックチェーン、ビットコインという言葉も、日常的に飛び交うようになっています。


利便性と安全性、国家管理と民間自律、公共性とプライバシー。議論すべきことは数多くありますが、もっとも根本的には、貨幣とは何か、通貨とは何かが、問い直されていることではないでしょうか。高校で、通貨の定義、通貨の3機能について学んだことを思い出してください。通貨とは、取引の決済に使われるもので、汎用性がなくてはならない。通貨の3機能とは、価値尺度機能、交換機能、蓄蔵機能である。こんなことを勉強しましたね。では、通貨の汎用性を保証しているのは誰でしょう。通貨の3機能は誰が付与しているのでしょう。政府でしょうか。制度でしょうか。市場でしょうか。電子決済の広がりは、このことを改めて問うています。


学長  伊藤 正直